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SDGs時代が求めるFintech【第8回】

貴志 優紀(Fintech協会理事/Plug and Play Japan Director)
2021年3月16日

日本では厳しい要件が足枷に

 一方、日本では、残念ながら株式投資型のCFは海外ほど盛り上がっていません。日本証券業協会の『株式投資型クラウドファンディング統計情報』によれば、2020年は70件の募集に対し成立したのは50件(達成率71.4%)、金額では約108億円に対し約69億円(同63.9%)の調達でした。

 こうした背景には、株式投資型CFによる調達は2015年の改正金融商品取引法の施行により日本でも可能になったものの1年間の調達金額を他の私募債なども含めて合計1億円未満に留めなければならないといった要件があります。厳しい要件が普及の足かせになったのです。

 ただ2021年に入り、金融庁の「金融審議会市場制度ワーキング・グループ」では、株式投資型のCFだけで1億円以上を調達可能にするかどうかの検討が始まっています。投資家の投資上限額(50万円)の緩和や、少人数私募の人数算定方法の見直しなども議論されています。

 日本でも株式投資型のCFが広まれば、スタートアップなどは、従来のベンチャーキャピタル(VC)に加え、個人からの投資も受けられるようになります。2020年にはCF国内最大手のCAMPFIREが丸井グループと資本提携し、決済や物流においても協力体制を敷くと発表しています。大手とタッグを組む動きが広まればCFの利便性は高まります。

 そのほか、ファクタリング(売掛債権の買い取り)のオンライン化により、企業が即日で資金調達できるサービスも広まっています。CFや新しいファクタリングによって中小企業やスタートアップが、より柔軟に資金を調達できるようになれば産業の活性化にもつながるでしょう。

給与の受け取りも柔軟に

 一方、個人を対象にした資金繰りにおいては、2021年の解禁に向け議論が進んでいる給与のデジタル払いは、Fintechの活用例でしょう。これは、従来当たり前とされてきた銀行口座を介さずに「PayPay」や「LINEペイ」といった資金移動業者が提供する決済アプリに給与を直接入金できる仕組みです。

 デジタル払いでは金融機関に支払う振り込み手数料が減るため、月1度だった給与の支払いタイミングを複数に分割することも可能になります。資金繰りが逼迫しがちな個人にとっては恩恵が大きそうです。

 個人を対象にした資金繰りで、日本で特に問題になりやすいのが若年層や高齢者、外国人など、安定した給与収入や身元保障がなかったり、あるいはデジタルリテラシーが不十分な層です。

 若年層や外国人を対象にしたFintechとしては、AI(人工知能)技術を使って新たな信用スコアリングを構築するための実証実験が2020年から始まっています。オリックス・クレジットがオランダのスタートアップであるAdviceRoboと提携して取り組むもので、申請者の行動や心理、習慣に関するデータの分析結果を信用スコアとして活用します。若年層や外国人がローンを受けられる可能性が高まると期待されています。

 高齢者に対しては、資産を守るための新たな取り組みが始まっています。高齢者の口座から異常な出金があれば親族に知らせるもので、マネーフォワードが京都信用銀行と組んで2019年8月から実施しています。

 相続額の試算や財産目録の入力などができるサービスもあります。FP-MYSが提供する「レタプラ」は、高齢者やその家族は相続に関する手続きをオンライン上で実施できます。

ファイナンシャルインクルージョンをFintechが支える

 金融業界では今、「ファイナンシャルインクルージョン(金融包摂)」をいかに達成していくかが大きな課題になっています。ファイナンシャルインクルージョンとは、世界中のすべての人々がすべての人が各種の金融サービスを利用できるにアクセスできる環境を用意することです。

 今回紹介したクラウドファンディングや、個人向けの新サービスなどのFintechは、金融包摂の達成の一助になるでしょう。そのことはSDGsの取り組みにもつながるはずです。

 もちろん金融包摂の達成に向けては、地域や所得、金融を中心とした知識、アクセス環境など、さまざまな要因が解消されなければなりません。より多くの人が安心して、より快適に金融サービスを利用できる世界の実現にFintechが一役買うことが期待されます。

貴志 優紀(きし・ゆうき)

Fintech協会理事。Plug and Play Japan Director)。2008年ドレスナー・クラインオート証券に新卒入社後、2009年にドイツ証券へ転職。金融商品のバリュエーション、決済などオペレーション業務に従事。2016年ケンブリッジ大学にMBA留学後、2018年5月よりPlug and Play JAPANに参画。Fintech部門のディレクターとしてFintechプログラム全般を担当。