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Fintechがあらゆる業種のパーソナライズ化を促す【第9回】

貴志 優紀(Fintech協会理事/Plug and Play Japan Director)
2021年4月12日

「Fintech」という用語も今は広く浸透していますが、その発端は2013年ごろ。まずは海外で、既存の金融機関が提供してきた様々な機能を細分化し提供する企業が生まれ、日本でも2015年ごろから同様の流れが生まれました。キャッシュレス経済への動きやファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)などを背景にFintechは、さらなる発展が期待されています。

 2021年3月1日、ヤフーの親会社であるZホールディングスとLINEの経営が統合されました。統合により生まれた巨大ネット企業は、世界に通用する「スーパーアプリ」の提供を目指しており、その中心的機能に位置付けられるのが金融です。

 続く3月12日には、楽天と日本郵政が資本提携に合意し、キャッシュレス分野での協業を目指すと発表しました。これらの例が示すように今、ネット企業がタッグを組んで金融業界に新しい風を巻き起こそうとする動きが広がっています。

PayPayへの一極集中がより鮮明に

 LINEを統合したZホールディングスが手がけるFintech関連事業には、注目すべきポイントが2つあります。1つはQR決済です。同サービスとしてこれまで、ヤフーは「PayPay」を、LINEは「LINEペイ」をそれぞれ提供していました。これら2つのサービスは2022年4月に統合される予定です。

 QR決済については2019年、様々な業界プレーヤーが一気に参入し競争が激化しました。2020年には他社に先行して事業を展開していたOrigamiがメルカリに買収されています。Zホールディングスによる統合によりLINEペイも集約され、PayPayの一強体制が、より鮮明になりました。今後もキャッシュレス決済はPayPayを中心に優勝劣敗が進むとみられます。

 2点目は、LINEが、みずほフィナンシャルグループとタッグを組んで2022年度中の開業を予定する「LINE Bank」です。LINEの月間ユーザー数は8600万人で、デジタルネイティブと呼ばれる若年層を顧客に抱えています。LINE Bankの設立により、みずほは、そうしたユーザーを新たなターゲット層としての抱え込みを狙っています。

 一方のLINEにとっても、スーパーアプリ化を進め中で銀行機能を付加することで、モノやサービスの購入から決済までを自社アプリ内で完結させたり、より多くのデータを蓄積したりが可能になります。

 LINEとみずほに続き、三菱UFJ銀行とNTTドコモが包括提携の検討に入ったと2021年1月に報道されました。

 メガバンクは2015年ごろからオープンイノベーション(共創)部門を相次いで立ち上げ、他社との協業などによる新規事業を生み出そうとしてきました。そこから6年ほどが経ち、成果が徐々に現れてきているようです。ネット企業が勢力を増し、金融機関にとって無視できない存在になってきたという面もあるでしょう。

 LINEやNTTドコモなどネット上での顧客接点を持ち、シームレスにサービスを提供できる企業と金融機関がタッグを組むような流れは今後も加速するとみられます。