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Fintechがあらゆる業種のパーソナライズ化を促す【第9回】

貴志 優紀(Fintech協会理事/Plug and Play Japan Director)
2021年4月12日

日本発のデジタル銀行「みんなの銀行」が始動

 ネット企業などが続々参入し金融サービスの競争が激しくなる中で、既存の銀行単独でデジタル化を進めているのが、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)です。デジタル銀行となる子会社、みんなの銀行を設立し、2021年5月下旬にもサービスを開始する予定です。

 従来、地方銀行の顧客は、その地銀が拠点を置く周辺地域に限定されてきました。そうした地銀が、全国のデジタルネイティブ世代を顧客にできるデジタル銀行を開業するということは、大きな変化の1つだと言えるでしょう。デジタル化が進んだ今の時代だからこそ実現した“攻め方”です。同行の約100人の社員のうち6割が金融以外の出身であるなど、人材という意味でもパワーシフトが起きています。

 みんなの銀行における、もう1つの注目点が勘定系システムの稼働環境です。日本企業として初めて、勘定系システムを米Googleが提供するパブリッククラウドの「Google Cloud」上に構築しました。

 金融機関はこれまで、勘定系システムを自社内に構築しており、そのシステムを使って新たなビジネスを生み出したり新たな機能を付加したりする際には長い時間を必要としてきました。クラウドシステムを利用する、みんなの銀行では、より臨機応変な対応ができると期待されます。

 みんなの銀行は、地銀の取り組みとしては最先端ではありますが、全国から顧客を獲得するには、いくつものハードルがあるのも事実です。口座は開設してもらえたとしても、例えば給与が払い込まれるようなメインバンクとして選ばれるためには、ブランド力や他行との差別化要素が必要不可欠になります。チャレンジャーバンクが複数生まれている欧米でも、「給与の振込先は大手銀に、余剰資金の預け先は新興の金融機関に」といった選択をする人が多いという傾向があるそうです。

 今後、日本の消費者が、どのように金融機関を使い分けるのか、金融機関がどのように独自のサービスを提供していくのかは大いに注目したいところです。

個人に最適化したサービスの実現に寄与

 一方、各地で実証実験などが始まっている次世代移動サービスを提供するMaaS(Mobility as a Service)におけるFintechの活用が広がってきました。

 特にシェアリングサービスでは、利用者同士が金銭を円滑かつタイムリーにやり取りするためのキャッシュレス機能が必要不可欠です。Fintechによって安い手数料でオンラインで支払えるようになれば、自動車を数分単位で貸し借りするようなサービスも実現できるようになります。

 Fintechが活用できるのは顧客との金銭授受にとどまりません。米国ではUber TechnologiesやウォルマートなどがFintechに触手を伸ばしています。Uberが金融機能を付与したいのは、ドライバーなどの従業員に給与を即座に払い、利便性を高めたいからでしょう。ウォルマートも給与支払いなど従業員に向けた新たな金融サービスの提供を狙っています。

 Fintechを活用すれば、あらゆるステークホルダーに合わせて、よりパーソナライズされたサービスの提供が可能になります。今後は、より幅広い業界でFintechを取り入れる動きが広がるでしょう。読者のみなさんもFintechを金融業界の動きとしてはもとより、あらゆる業種においてどのような影響・連携が起こるのかを注視していただきたいと思います。

貴志 優紀(きし・ゆうき)

Fintech協会理事。Plug and Play Japan Director)。2008年ドレスナー・クラインオート証券に新卒入社後、2009年にドイツ証券へ転職。金融商品のバリュエーション、決済などオペレーション業務に従事。2016年ケンブリッジ大学にMBA留学後、2018年5月よりPlug and Play JAPANに参画。Fintech部門のディレクターとしてFintechプログラム全般を担当。