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  • 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方

常に最高を目指す組織カルチャーを育むための実践策【第2回】

木村 幸太、黒木 昭博、中岡 泰助(日本IBM IBM Garage事業部)
2020年10月21日

小さなチームから始め、企業全体に波及させる

 IBM Garageでは、利用者中心のアジャイルな働き方を理解することから始め、小さなチームで実践し、それを組織や企業全体に徐々に拡げることで変革する力に変えていくことを目指す。具体的には人、組織、実践作法、協働する場の4つの視点から変革を進める(図2)。

図2:カルチャーを変革するための4つの視点

人の視点 :ワークショップやメソッドトレーニングを通じて、経営陣含めたコア関係者に対して共通理解を形成し、狙いを明確にする。必要な指標を設定し、リーダーやチームに権限を与えることも含む。

組織の視点 :たとえば、デザイン部門や技術部門といった関連する部署に適用する範囲を拡げ、役割を再定義し、人材を登用する。

実践作法の視点 :コラボレーションの促進に向けた定期的なコミュニケーションサイクルの確立や、そのためのプロセスを利用者の価値を起点に考えるアジャイル型に変えることを指す。

協働する場の視点 :他者と意見を交換することはもちろんのこと、1人ひとりが自律的に深く考えるためのもの。物理的な場もあれば、デジタル上の場も含まれる。

 アクティビティとして表現するならば、(1)人の意識を変えて小さなチームから始め、(2)組織に適用範囲を拡大し、(3)実践作法を確立させ、(4)協働する場を整備していく、という大きな流れになる。

 ただ、これは必ずしも連続的に進むものではない。各内容は相互に関係しており、反復していくことで、徐々に意識と行動を変容させていくのが正確な表現と言えるだろう。

カルチャーを変革するための視点を自らに問う

 アジャイルについては、20年近くに渡り世界的に支持を得ている『アジャイルマニフェスト』をご存知の方も多いだろう。

 そこには、個人との対話、相互作用、顧客とのコラボレーション、変化への対応を重視することが描かれている。「このような考え方を自社にも取り込みたい」と意気込んで実際に導入しようとすると、さまざまな課題が発生し、思ったように進まないという企業は少なくない。

 仮に、以下の状況で、カルチャーの変革を伴う取り組みを実行しようとしたときに、読者なら何を重視するだろうか。ご自身の仕事に適用し、アクションを起こしている姿をイメージしながら是非一度考えてみていただきたい。

ミニ演習1

状況 :あなたは出版社に勤め、新事業企画のリーダーを務めています。
近年、発行部数が大幅に減少し、従来のやり方に捉われないアプローチ、アイデアが求められています。
一方で、新しい取り組みゆえに、これまでのやり方で成功をおさめてきた層から、抵抗や反対があることも予想されます。
単なるアイデア出しにとどまることなく骨太な取り組みにするために、あなたはスタートするうえで何を重視するでしょうか。

選択肢(あなたの考えに当てはまるものにチェックをつけてみましょう)

□ トップも含めて変えるべきことを検討する ↔ □ 内外の有識者から様々な事業アイデアの提案をもらう

□ 多様なスキル・スタイル・思考を持った人を集める ↔ □ 自社で優れた業績をあげた人を集める

□ 素早く失敗し、素早く学ぶ ↔ □ 計画立案に時間をかける

□ コラボレーションに適したスペースを検討する ↔ □ 集中的に検討するために社内の会議室を長期間押さえる

 次回は、「ミニ演習1」の解説と、直面しやすい課題に対し具体的な実践ポイントについて紹介していく。

木村 幸太(きむら・こうた)

日本IBMグローバル・ビジネス・サービス事業本部 IBM Garage事業部 部長。IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)に入社後、さまざまな業種の企業への営業やCRM、マーケティング戦略の策定・実行支援、BPR、システム化構想から導入など経験する。2018年1月にスタートアップを支援するIBM BlueHub、同年10月よりIBM GarageのLeadに着任。近年は、イノベーションやデジタル変革をテーマに、デジタル戦略やアジャイル案件を数多く手がけている。

黒木 昭博(くろき・あきひろ)

日本IBM グローバルビジネスサービス事業本部 IBM Garage事業部 マネージングコンサルタント。事業変革の構想立案や、それに伴うデジタル活用、新サービスの企画コンサルティングを手掛ける。企業と顧客が一体になって価値を生み出す共創を促進する手法の研究開発や実践にも取り組む。著書に『0から1をつくる まだないビジネスモデルの描き方』(日経BP社、共著)、『徹底図解 IoTビジネスがよくわかる本』(SBクリエイティブ、共著)がある。修士(経営学)。

中岡 泰助(なかおか・たいすけ)

日本IBM グローバルビジネスサービス事業本部 IBM Garage事業部 コンサルタント。フランス プロヴァンス大学院 文化人類学修士課程修了後、日系メーカーの技術営業職を経てIBMに入社し、米国・欧州・日本における新規事業企画、業務改革等のコンサルティングに従事。アフリカのガーナやマリでの調査経験を有し、ブータンの開発政策に関する著作『Le développement basé sur le Bonheur National Brut』がある。