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  • 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方

常に最高を目指す組織カルチャーを育むための実践策【第2回】

木村 幸太、黒木 昭博、中岡 泰助(日本IBM IBM Garage事業部)
2020年10月21日

第1回では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実行に必要なプラットフォームやエコシステム、人材やテクノロジー、トレーニングなどを提供するエンド・ツー・エンドのサービスである「IBM Garage」の全体像を説明した。IBM Garageを構成する7つのコンポーネントのうち、その中心にあるのが「Culture」であった。その「Culture」の実践手法とアクションの例を第2回〜第4回で紹介する。

 一般的に多くの企業は、ビジネスの拡大に伴って組織の規模が大きくなると、分業化を推進し、効率よく仕事を進めようとする。安定した外部環境下では、こうした施策が効果を発揮する。だが、大きな環境の変化が起きると対応スピードに欠け、結果的に競争力を失いかねない。いわゆる大企業病だ。

変革の鍵は“組織カルチャー”の確立にある

 そうした事態を避けるためには、多様な人材が、時に顧客をも巻き込んで協働するのはもちろんのこと、利用者の課題やニーズについて仮説を立て、これまでの発想にとらわれることなく解決策を形にし、価値ある最高の体験を目指して継続的に改善するサイクルを素早く回し続ける必要がある。

 アジャイル(俊敏)な企業組織への変革、デザイン経営の浸透——。このようなキーワードを、昨今の企業変革における課題として耳にした読者が多いことだろう。

 これらは、製品/サービスの利用者を中心に据えて、環境変化に対し、しなやかで、スタートアップ企業のようなスピードで、価値ある顧客体験を提供し続けるようになる組織への移行を意味する。

 プロジェクトマネジメント協会の調査によれば、こうした俊敏性が増すことによって、変化への迅速な対応、組織効率の向上、顧客満足度の向上など、さまざまな利点がある。

 こうした企業への変革の鍵は“組織カルチャー”の確立にある。だからこそ「Culture」は、IBM Garageの構成要素の中で、その根幹を成している。

 実は米IBM自体も、こうした変革を志向し実践している企業だ。前CEO(最高経営責任者)のジニー・ロメッティは、次のように語っている。

 「すべての企業にとって、持続的成長を促す成功の鍵は、卓越した顧客体験だ。社員が誇りをもって関わり合い、その社員たちが、卓越した顧客体験を提供する。その結果としてIBMのビジネスが成長する。物事はその順番で起こる。その逆ということは決してない」

 その実践策の1つとして、世界で35万人を超える全社員に対し、デザイン思考を思考様式にするための取り組みを2012年から進めている。

 こういった変革手段として、デジタルテクノロジーを活用することで新たな体験価値を生むことが、昨今必要性が強調されているデジタルトランスフォーメーション(DX)の1つとも言える。

カルチャーを変えるために実現すべき3つのこと

 企業がしなやかに、そしてスタートアップ企業のように動くカルチャーを作るためには、どうすれば良いのだろうか。IBM Garageでは以下の3つの実現が必要だと考える。

実現すべきこと1 :チームが自律的に意思決定を下し、責任を持って利用者に価値あるプロダクトを提供するというマインドセットが形成されている

実現すべきこと2 :チームを機能させるために必要なスキル、環境、リソース、ツール、サポート体制が整っている

実現すべきこと3 :利用者からのフィードバックを元に、プロセス/プロダクトを改善するという日々の具体的な活動サイクルが確立されている

 1つ目は、考え方や価値観ともいうべきものである。2つ目は人と組織を活かすための諸条件であり、3つ目は具体的な活動のプロセスを指す(図1)。

図1:カルチャーを変えるために実現すべき3つのこと

 これらカルチャー形成に関わる3つの要素から、信頼関係の構築やコラボレーションが促進され、利用者にとって価値のあるプロダクトの提供に向けた迅速なアクションが容易になる。

 しかしながら、こうした組織への変革は一朝一夕にはいかないことは、だれもが感じていることだろう。経営陣は変革の背景を明らかにし、リーダーやチームに権限を与える必要があるからだ。場合によっては、制度やルールを整備するなど、さまざま打ち手が求められる。