• Column
  • 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方

常に最高を目指す組織カルチャーを育むための実践ポイント(後編)【第4回】

木村 幸太、黒木 昭博、中岡 泰助(日本IBM IBM Garage事業部)
2020年12月2日

(4)場の視点:いかにコラボレーションを加速させるか

 これまで多くの企業は、1カ所に多くの社員を集めたり、拠点を統廃合して集約したりすることで、社内外のコラボレーションを促進してきた。一方で、新型コロナウィルス感染症(COVID–19)によって、そのあり方も見直しを迫られている。安全確保を大前提に、どのようなカルチャーを構築したいかという視点から、場のあり方・活用の仕方を再考することが今こそ必要になっている。

 このような状況を踏まえて、あなたならどのようにコラボレーションを進めていくだろうか。

アクションa :日頃よく使っている社内の使い慣れた会議室で集中討議する
アクションb :オープンで自由に机や椅子を動かせるスペースを確保して集中討議する
アクションc :どのようなつながりやコミュニケーションを生むべきかという観点でフィジカルとデジタルの両面から設計する

 IBM Garageでは、アクションcを重視する。フィジカルな場での人のつながり方と、デジタル上での信頼関係の強化や活動は、相互に補完するものとして捉える。

 アクションaはコラボレーションを加速させるという観点では、普段と環境が変わらないため十分な選択肢とは言えない。アクションbは重要だが、単にワークショップが開ける場所というだけでは不十分だ。事例を交えて、具体的にみていこう。

実践ポイント4-1:コラボレーションのあり方から物理的な場を設計する

 「広いスペースを作ったのにあまり利用されなかった」「ヘッドフォンをつけての個人作業ばかりでコラボレーションが生まれていない」といった話を耳にする。適切に設計されたコラボレーションスペースは、ホワイトボードやコミュニケーション用のITツールとの組み合わせにより、チーム活動の補完や信頼関係の強化につながる。

 利用人数や人々の動きを考慮する必要があるが、人と人をつなぎ、コラボレーションを促進する物理的な場は大きく3つのシーンに分類できると言われている。

(1)問題解決や情報共有を行う場=ペアプログラミングやスタンドアップミーティングをするのに適した広さで、椅子やテーブルが配置されている場など
(2)イベントやランチなどを通じて関係構築を行う場=インフォーマルなものも含めて人と人とのつながりを生むためのリビングのような場など
(3)上記の組み合わせ=ワークショップができるような広めの場、また付箋やペン、ホワイトボードなどの備品が配置されている場など

 こうした観点で場を考えると、メリハリのついたコラボレーションが容易になる。多額の設備投資をしなくても、既にある場に対して椅子やテーブルといったオフィス家具や備品の置き方を工夫することで適した環境を作ることもできる。

写真1:IBM Garage Tokyo Marunouchiの例。ワークショップ、ペアプログラミングなどコラボレーションに適したスペースとして設計されている。家具などは、配置を自分たちの工夫で柔軟に変えやすいものを揃えている

 IBMは、世界中で共創スペースを開設している。いずれも、自らの手でテンポラリーな場も含めて各国のメンバーが独自にコラボレーションを促進させる工夫を凝らしている。注意点は、コラボレーションの前後で行う個人ワーク用に、メンバーが深く考えることに適したスペースも確保することである。

実践ポイント4-2:リモートでは意図的にメリハリをつける

 COVID-19の影響により、オンライン会議ツールを使ったリモートコラボレーションが実践され、その良し悪しが議論されるようになった。そこでは対面以上に、意図的にメリハリをつけることが大事だ。カルチャー形成に影響を与えるポイントを紹介しよう。

(1)タイミングを考慮する

 一見当たり前のようだが、コロナ禍で在宅勤務する場合、日中であっても共働きや小さい子供がいるなど、家庭状況によっては集まりにくい時間帯がある。チームとつながっているという感覚が希薄になりがちなため、重要なミーティングは、一同に介せるタイミングを意識的に設定することが大切だ。

(2)チームビルディングに十分な時間をかける

 リモートの場合、日々の何気ない雑談の中でお互いを知ったり情報交換したりと自然発生的にできていたことが難しくなる。IBMでは、顧客とチームを組んで共同でアジャイル開発に取り組む場合などは、Slackなどのビジネスチャットツールを利用しているが、仕事用のチャネルとは別に、個人の関心事や趣味、プライベートな話ができるチャネルを設け、気軽に情報共有できる仕組みを実践している。

(3)約束事を明確にする

 自分とチームのための標準的なルールを定め、徹底する。必ずしも特別なことを実施するわけではない。例えば、全員で15分間の夕会を開き1日を振り返る、オンライン会議開始時はカメラをオンにする、月1回オンラインランチを共にするなどである。実際IBMでは、在宅勤務の誓いを立て、家族を気遣うことや長いミーティングでは1時間ごとに短い休憩を取ることなどを定めている。

仕事を楽しむことが、カルチャー形成につながる

 第3回と第4回では、常に最高を目指す組織カルチャーの形成で直面しやすい課題にフォーカスし、実践ポイントを前後編に分けて紹介した。

 カルチャーを変容させるうえで忘れてはいけないことがある。それは「Have fun」、つまり1人ひとりが仕事を楽しんで自発的に取り組むことである。「ポジティブな考え方を持つ人はネガティブな人よりも31%生産性が高い」という研究結果も存在する。

 やりがいがあって熱中できる、そしてプロダクトやサービスを使う利用者が喜ぶ、さらに仕事を楽しめるという好循環は、自律的なチーム作りに欠かせない。

 次回は、IBM Garageの7つのコンポーネントのうち、取り組むべき領域を特定する「Discover」について紹介する。カルチャーの変革により自律的になったチームが、問題領域を発見し、それに対する理解を深め、ビジネス目標を立てるプロセスである。

木村 幸太(きむら・こうた)

日本IBMグローバル・ビジネス・サービス事業本部 IBM Garage事業部 部長。IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)に入社後、さまざまな業種の企業への営業やCRM、マーケティング戦略の策定・実行支援、BPR、システム化構想から導入など経験する。2018年1月にスタートアップを支援するIBM BlueHub、同年10月よりIBM GarageのLeadに着任。近年は、イノベーションやデジタル変革をテーマに、デジタル戦略やアジャイル案件を数多く手がけている。

黒木 昭博(くろき・あきひろ)

日本IBM グローバルビジネスサービス事業本部 IBM Garage事業部 マネージングコンサルタント。事業変革の構想立案や、それに伴うデジタル活用、新サービスの企画コンサルティングを手掛ける。企業と顧客が一体になって価値を生み出す共創を促進する手法の研究開発や実践にも取り組む。著書に『0から1をつくる まだないビジネスモデルの描き方』(日経BP社、共著)、『徹底図解 IoTビジネスがよくわかる本』(SBクリエイティブ、共著)がある。修士(経営学)。

中岡 泰助(なかおか・たいすけ)

日本IBM グローバルビジネスサービス事業本部 IBM Garage事業部 コンサルタント。フランス プロヴァンス大学院 文化人類学修士課程修了後、日系メーカーの技術営業職を経てIBMに入社し、米国・欧州・日本における新規事業企画、業務改革等のコンサルティングに従事。アフリカのガーナやマリでの調査経験を有し、ブータンの開発政策に関する著作『Le développement basé sur le Bonheur National Brut』がある。