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  • 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方

常に最高を目指す組織カルチャーを育むための実践ポイント(後編)【第4回】

木村 幸太、黒木 昭博、中岡 泰助(日本IBM IBM Garage事業部)
2020年12月2日

第2回で、アジャイル(俊敏)な企業になるための変革の視点を紹介し、前回は、活動の初期段階における実践ポイントとして、(1)人と(2)組織の視点から紹介した。今回は、(3)実践作法と(4)協働する場の視点から実践ポイントを紹介する。

(3)実践作法の視点:素早く失敗し、素早く学ぶ

 人間誰しも失敗はしたくないものである。だがビジネスでは、失敗を不可避のものと捉え、いかに学習できるかが事業の成否を握る。失敗から何かを学び取る文化が一度生まれると、それが日常サイクルの1つになり、組織にしなやかさが生まれる。

 これらを前提に、あなたが新しい企画を担当することになったら、どのような考え方で物事を進めていくだろうか。

アクションa :これ以上検討の余地はないというレベルまで机上での調査に時間をかけ、企画案を練る
アクションb :上層部から示された方向性をそのまま、スピード重視で形にする
アクションc :企画案として粗くても、最もリスクの高い仮定から検証に取り掛かる

 IBM Garageでは、アクションcを重視する。仮に企画案が上手くいかない場合でも、それに早期に気づけば無駄な投資コストを抑えられるからだ。

 アクションaでは、机上での調査を通じて案を徹底的に練ったが、いざ利用者に聞いてみると誰も欲しがらないという事態が実際に往々にして起こる。アクションbは、スピードは重要であるものの、方向性に対して誰のどのような課題を解決するのかという仮説を立て、検証しながら進める必要がある。

 アジャイル開発における具体的な実践作法は今後の「Develop」のパートに譲り、ここでは原則論としてのポイントを紹介する。

実践ポイント3-1:最もリスクの高い仮定を検証する

 IBM Garageでは、利用者が望んでいないプロダクトに投資をしてしまうことが最も高くつく失敗だと捉える。そこで、現時点で企画したビジネスアイデアは仮説として捉え、その仮説を支えている最もリスクの高い仮定を特定し、検証の対象にする。

 例えば、乳幼児向けに特化した音楽アプリを企画しているとしよう。この場合の仮定には、どのようなものがあるだろうか。乳幼児に音楽を聴かせることに教育効果やリラックス効果がある、音楽をそもそも聴かせる習慣がある、乳幼児に特化したものは少ないなど、さまざま仮定が挙げられるだろう。

 これらのうち、その仮定が棄却されるとビジネスアイデアが成り立たなくなるという危険性があり、かつ不確実性の高いものから検証する(図1)。

図1:最もリスクが高い仮定、すなわち、その仮定が棄却されるとビジネスアイデアが成り立たなくなるものから検証する

 IBMのクライアントにおいても、机上での企画や分析から、利用者を中心に置いた仮説検証の重視へと切り替えている企業が多く存在する。検証手段は、その時々に応じて、実際の利用者の行動の観察やインタビュー、試作した実用最小限の製品の評価テストなどから選択する。

 こうした仮説検証によって、使われないプロダクトになるリスクを回避する。逆に、いち早く必要とされるものに気づくことで、追加投資を獲得し着実に活動を進めていく。