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- 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方
Envision:偶然に頼らずにイノベーションをデザインするための実践ポイント【第8回】
手法3「MVPステートメント」:プロダクトの方向性を明確にする
利用者に必要とされるものが見えてきたら「MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)」を作成する。その際、いきなり開発に着手するのではなく、「MVPステートメント」を定義することをお勧めしている。「目標の丘」に対し、どのように到達するかを定義するものだ。
プロトタイプを使った検証を繰り返した後でも、MVPによる検証を繰り返すなかで新たな気づきが生まれてくる。そのためMVPステートメントも、一度書いたら終わりではなく、柔軟に更新していく姿勢が必要だ。
では、MVPステートメントには、どのような要素を盛り込むべきだろうか。
アクションa :MVPステートメントでは、投資判断を仰ぐことにもなるため、MVP開発の明確なロードマップを描き、必要な予算・人員等を詳細に明記する
アクションb :MVPステートメントでは、MVPの成果をどのように測定するのかという指標を明記する
アクションc :MVPステートメントでは、MVPを使った仮説検証結果により実装する機能が変わるため、必要最小限の機能とそれ以外の機能の両方を明記する
IBM Garageではアクションbを重視する。
アクションaについては、どのように開発をしていくかというロードマップも必要だが、MVPステートメントと混在させると何を作るのかという焦点が定まらなくなる。アクションcも同様で、必要最小限でない機能は代替プランとして持っておくのがよい。
実践ポイント:指標を設定することで、軌道修正・変更の判断材料にする
MVPステートメントは、具体的には図3のような形式でまとめる。構成要素として、MVP名、解決される課題、提供するプロダクト、成果を計測する指標を明記する。
とりわけ、MVPを構築して利用者に使ってもらいながら検証を進めていくなかで、何をもってプロダクトの開発を継続するか停止するかという判断を迫られる。そのため、プロダクトの特徴に応じて、MVPステートメントに成果を計測するための指標と計測手段を盛り込んでおき、軌道修正や変更を行うための判断材料にする。
指標と計測手段を設定すると、開発スプリントごとに、指標がどのように推移しているかが共通言語となり、メンバーや関係者の間で目線を合わせることが容易になる。
今回は、取り組むべき領域において解決策を構想していくための実践ポイントを紹介した。スピーディーにプロトタイプを作成し、仮説検証を繰り返していくことが特に重要である。
次回は、IBM Garageコンポーネントの「Learn」について紹介する。課題の特定から解決策を共創していくために、利用者やプロセスから学び続けるための方法を紹介する。
木村 幸太(きむら・こうた)
日本IBMグローバル・ビジネス・サービス事業本部 IBM Garage事業部 部長。IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)に入社後、さまざまな業種の企業への営業やCRM、マーケティング戦略の策定・実行支援、BPR、システム化構想から導入など経験する。2018年1月にスタートアップを支援するIBM BlueHub、同年10月よりIBM GarageのLeadに着任。近年は、イノベーションやデジタル変革をテーマに、デジタル戦略やアジャイル案件を数多く手がけている。
黒木 昭博(くろき・あきひろ)
日本IBM グローバルビジネスサービス事業本部 IBM Garage事業部 マネージングコンサルタント。事業変革の構想立案や、それに伴うデジタル活用、新サービスの企画コンサルティングを手掛ける。企業と顧客が一体になって価値を生み出す共創を促進する手法の研究開発や実践にも取り組む。著書に『0から1をつくる まだないビジネスモデルの描き方』(日経BP社、共著)、『徹底図解 IoTビジネスがよくわかる本』(SBクリエイティブ、共著)がある。修士(経営学)。
中岡 泰助(なかおか・たいすけ)
日本IBM グローバルビジネスサービス事業本部 IBM Garage事業部 コンサルタント。フランス プロヴァンス大学院 文化人類学修士課程修了後、日系メーカーの技術営業職を経てIBMに入社し、米国・欧州・日本における新規事業企画、業務改革等のコンサルティングに従事。アフリカのガーナやマリでの調査経験を有し、ブータンの開発政策に関する著作『Le développement basé sur le Bonheur National Brut』がある。