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  • 〔誌上体験〕IBM Garage流イノベーションの始め方

Envision:偶然に頼らずにイノベーションをデザインするための実践ポイント【第8回】

木村 幸太、黒木 昭博、中岡 泰助(日本IBM IBM Garage事業部)
2021年3月19日

第7回では、イノベーションを進めるに当たり、デザイン思考が必要とされる背景や、その活用メリット、実践するうえでの枠組みを紹介した。今回は、そうした活動から見出された利用者への価値の定義や検証における実践ポイントを詳述していく。

 第7回の最後に、架空のケースに基づく選択式の「ミニ演習3」を出題した。いずれの選択肢も必ずしも間違いというわけではないが、選択肢に関しては右側に挙げた要素が、より重要になる。

 IBM Garageのコンポーネント「Envision」におけるデザイン思考では、利用者への理解を深め、解くべき課題を設定するための考え方やアイデアを創出するために、様々な手法を用意している。各手法における実践ポイントを説明する。

手法1「目標の丘」:顧客体験としての価値を定義する

 自社が提供しようとする顧客体験における価値を、きちんと言語化できているケースは意外と少ないのではないだろうか。手段としてのテクノロジーの話に偏ってしまっていたり、価値が曖昧なまま進めたことで推進チーム内にも様々な解釈が存在し、活動スピードが低下してしまったりするケースも散見される。

 IBMでは顧客体験の価値を、前回紹介した「目標の丘」を使って定義する。図1に示す価値に関わる記述を比較した場合、どちらが適切な表現であろうか。

図1:利用者の価値の表現の比較

 左側Aのほうが、顧客体験として何が価値なのかを具体的に見てとれるのではないだろうか。

実践ポイント:Who、What、Wowの3要素で表現する

 図1の左側Aでは、「Who(特定の利用者が)」「What(特定の何事かをできるようになる)」「Wow(特定の市場価値/差別化をもって)」の3つの要素で構成されている。

 順に見てみると、まず誰(Who)が恩恵を受けるのかが明確になる。次に、利用者は何ができるようになるかという“コト(What)”が、そして最後に、それにどのような価値(Wow)があるのかを明らかにしている。Wowには、いくつか観点がある。例えば、「1クリックで」「いつでも」といった“時間”や、「素人でもプロと同等に」といった“スキル”といった観点だ。

 一方、図1の右側Bでは、テクノロジーを使って「何をやるか」という記載はあるものの、「誰が」「何をできるようになるのか」は曖昧になっている。そのため、達成した状態を測定するのも難しい。

 筆者らがクライアントと取り組む際は、これら3つの要素を使って価値を言語化し、チームが共通認識を持てるように時間をかける。実際、こうした表記の仕方は分かりやすいと好評を得ている。