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  • 多様化する働き方が求めるアイデンティティガバナンスの基礎

バーチャルファーストが求めるアイデンティティを理解する【条件1】

藤本 寛(SailPointテクノロジーズジャパン社長)
2022年6月27日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、あらゆる人と企業に影響を与え生活を一変させた。感染拡大のリスクから企業はリモートワークを導入し、個人の生活やコミュニケーションの多くがオンラインにシフトした今、アイデンティティの重要性が、かつてないまでに高まっている。正しく対応するには、デジタルが求めるアイデンティティの基礎を理解する必要がある。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止策として始まったリモートワークは2022年に入り3年目を迎えている。だが、新型株の登場による感染者の増加が繰り返されている。中国では、いくつかの都市が封鎖されるなど出口が見えない状況にある。

経済活動の3分の2を在宅勤務が担う

 米ガートナーの調査によれば、世界で11億人がリモートワークを実施している。米スタンフォード経済政策研究所の調査では、アメリカの経済活動の3分の2が在宅勤務によって成り立っている(図1)。リモートワーカーの数は2019年の3倍に増加するなど世界的に大きな流れになっている。

図1:リモートワークに取り組む動きは、さらに進行している

 リモートワークの定着に関連して「BYOE」という考え方も普及しつつある。「Bring Your Own Environment」の略で、個人が所有するデジタル環境そのものを仕事に活用しようという考え方だ。10年ほど前から、個人のデバイスで仕事をする「BYOD(Bring Your Own Device)」という考え方が広まってきたが、それをデジタル環境全体にまで広げる。

 BYOEは当初、セキュリティの観点からリスクとして指摘された。個人の家庭にもプリンターやスキャナのほか、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)化が進む家電など現代では多くのIoTデバイスが存在し、これらがセキュリティホールになりかねないからだ。

 それが最近は、BYOEを導入している企業の求人に応募が集まる傾向が明らかになった。従業員にすれば、業務を遂行できる環境さえあれば場所を問わずに働けるためニーズが高い。公益企業幹部を対象にした調査では、81%が「BYODからBYOEへ移行する」と回答。86%は「BYOEは見つけにくい人材の市場を開き、組織間の人材獲得競争が拡大する」とみている。

 同じ理由から、オンラインワークを働き方の基本とする「バーチャルファースト」や、3次元の仮想空間「メタバース」というキーワードも注目を集め始めている。メタバースの中に会社を設け、そこに出社するということも現実味を帯び始めたことによって、業務の質を落とさずに、より効果的な人材の活用や配置を可能にする新たなワークフォースモデルの構築に取り組む企業が増えている。

 新たなワークフォースモデルは、テクノロジーとセキュリティ、ワークプレイスアナリティクスにより構成される。テクノロジーとセキュリティが安全なBYOEを提供し、そこでの働き方を可視化・分析することで従業員体験(EX:Employee Experience)を高め、働きがいのある環境を実現・提供するのが目的だ。

 コロナ禍にある今、ニューノーマルな世界が形成されつつある。先進的な企業はバーチャルファーストへの対応で勝ち残ろうとしている。日本企業においても、ニューノーマル、そしてバーチャルファーストへの対応が求められるはずだ。