• Column
  • 多様化する働き方が求めるアイデンティティガバナンスの基礎

多様な働き方をアイデンティティガバナンスで支える【条件2】

藤本 寛(SailPointテクノロジーズジャパン社長)
2022年7月4日

アイデンティティガバナンスが魅力的な企業を生む

 人とアイデンティティにおける様々な変化や、それに伴う課題やリスクへの対応においては、セキュリティと生産性の両立が重要になる。大きなチャレンジだが、それらをいかにシンプルに実現するかが鍵を握る。シンプルにすることで管理側の負担が減り、利用者の使い勝手も向上する。シンプルさの実現を可能にするのが「アイデンティティガバナンス」の導入だ(図3)。

図3:アイデンティティガバナンスがシンプル化の鍵を握る

 アイデンティティガバナンスとは、従業員や契約社員、協力会社、ボットなど多岐にわたるすべてのユーザーの、すべてのシステムやデータ、アプリケーションに対するアイデンティティを一元管理し、企業のデジタルシステムのバックボーンとして、適切に制御・統制することである。

 つまり、誰が、いつ、どのデータやアプリケーションにアクセスできるかを把握し、適切なタイミングでコントロールすることで、情報活用の元となるアイデンティティを適切な状態に維持する。これにより、企業のコンプライアンスを確保し、情報漏えいなどの不祥事を防ぐだけでなく、増加するデジタルシステムを漏れなくタイムリーに利用できるようにしユーザーの生産性向上を図る。

 ガバナンスを効かせるためには可視化と監視、そして制御が必要になる。これらを実行することより生産性の向上が期待できる。加えて、それらを1つのシステム「ワンシステム」として実行できる必要がある。

 先のITRの調査でも、アイデンティティ管理システムの刷新方針として「認証だけでなく、権限・アクセス制御を統合する」を挙げる回答が最も多い。統合システムが1つの有効な方向性だということには企業も気づいていると考えられる。

 アイデンティティガバナンスを有効に機能させられれば、その効用として(1)従業員のストレスフリー、(2)安全なコラボレーション、(3)ロイヤリティ向上が期待できる(図4)。

図4:アイデンティティガバナンスがもたらす効用

 従業員は、リモートワークなどにより多くのシステムを使い分ける必要が高まっている。そこには摩擦が生じ、摩擦はストレスを生む。そこにアイデンティティ管理を統合しガバナンスを効かせれば、摩擦を解消しストレスをなくせる。ストレスフリーになり、満足感を持って働ければ生産性も向上するだろう。

 そのための仕組みとして、例えば米SailPoint Technologiesは「新しいユーザーインタフェースは”No user interface”だ」と、あえて呼んでいる。すなわちSlackやTeamsといった日常的に使用するツールからアクセス権限の追加申請などを可能にすることで、アイデンティティ管理システムにわざわざログインする手間を省く。

 安全なコラボレーションの実現は、結果として外部リソースを効果的に活用でき生産性の向上につながる。サプライチェーン上での外部企業とのコラボレーションでは、他社の従業員が自社システムにログインすることになる。他社のシステムに対し第三者が不正にアクセスしていれば、そのまま自社システムにも不正ログインされる恐れがある。そこにアイデンティティガバナンスを入れることで不審な挙動を検知しやすくなる。

 会社へのロイヤリティ(愛着)があれば、その従業員が転職することになっても重要なデータを持ち出そうとはしないと考えられる。

 多くの従業員はレガシーな環境で働くことは好まない。特に現在の若年層はオンラインゲーム「フォートナイト」のようなメタバースに近い環境に親しんでいる。リモートワーク環境は、そうしたバーチャル環境に近い。メタバースに企業を作り、そこに出社することは従業員満足度を高めるロイヤリティになるかもしれない。メタバースのようなバーチャル環境をどれだけ整備しているかは企業を選ぶ1つの指針になり得るだろう。

ガバナンスの基礎・基盤が不可欠に

 第1回で、アイデンティティはバーチャルとリアルを共存させるための“結束点”だと説明した。だとすると、そのアイデンティティをしっかりと管理すると同時にガバナンスを効かせる必要がある。そうした基礎・基盤があってこそ企業は、次のステップに進める。

藤本 寛(ふじもと・ゆたか)

SailPointテクノロジーズジャパン 社長 兼 本社バイスプレジデント。広島県出身。日本オラクル入社後、主に営業部門にて活動。インターネットセールス部門「OracleDirect」の立ち上げ、営業企画室長を歴任後、2006年に執行役員アプリケーションマーケティング本部長に就任し、ERP/SCM/CRM等のプロダクトマーケティング、ダイレクトマーケティング、カスタマーマーケティングを統括。2008年からCRM事業担当となり同社初のSaaSビジネスをリードする。2010年から日本マイクロソフトの業務執行役員としてOffice365などの法人向け製品・クラウドサービスの製品営業部門を統括。2013年からは米ServiceNowの日本法人をゼロから立ち上げ、SaaSによるITサービス管理ソリューションのクラウド化に貢献。2016年からクラウド型カスタマーサービスの米Zendeskの日本法人拡大やオフィス設立などに携わり顧客企業のクラウド化を支援。2021年より現職。