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  • 顧客価値を高めるためのデータ活用とCDP

マーケティングの原点に立ち返り組織にふさわしい自社データを育てる【第4回】

小川 裕史(サイトコア ソリューションコンサルタント)
2022年7月7日

 CDPと聞くと、DMPと同様にデータを蓄積する“箱”をイメージする人も多い。しかし、ここでいうCDPは、顧客(Customer)を軸に、その人に関するあらゆる情報を紐付けする仕組みを指す。

 これまで蓄積してきた購買データや閲覧履歴データ、営業やコンタクトセンターとのコミュニケーションログなどのログデータと共に、今どんなページを閲覧しているのか、どんな検索ワードを探しているのかといった“今の興味”を表すトランザクションデータを集約し、1つの顧客IDに紐付けていく。顧客を軸にした様々なデータを各部署で活用可能にする。

 Webサイトであれば、ログデータやトランザクションデータを基に過去の履歴や現在の興味関心をリアルタイムに分析し、最適なオファーを表示する。営業ならば、そのオファーを提案する。コンタクトセンターならば、オファーの提案や、前回やり取りした履歴を基に、より最適な対応を行う。つまりパーソナライズの実現である。

 そしてマーケティングは、オファーや提案に対する顧客の反応をデータとして蓄積し、次の施策立案に生かす。新規事業の立案であれば、顧客ニーズや嗜好の傾向をつかみ、マーケティングと共に新たな施策や事業企画を考えることもあるだろう。

 CDPを単なる“箱”にせず、全社で活用し育てていくには、各部門がCDPをどのように現場に活かして収益向上につなげるかという具体的なイメージを持つ必要がある。それが共有できれば、CDP導入に向けて大きく前進する。

全チャネルに一貫したパーソナライズをディシジョンモデルで実現する

 ではパーソナライズを各チャネルで実現するにはどうすれば良いのだろうか。

 現実的に考えれば、数万人、数十万人に上る顧客の1人ひとりの状況を踏まえ、個別対応することは不可能だ。そのためDMPでは、同じ属性や嗜好を持つ者同士を一括でターゲティングし、Webサイトの提案やメールマーケティングに活かすことが一般的だった。ただ、どこまで正確なターゲティングができていたかは疑問が残る。

 これに対しCDPベースのパーソナライズは、顧客軸で紐付けた様々なデータを基に、パーソナライズされた最適な提案を行うことで、ユーザー/企業共にWin-Winになることを目指す(図1)。そのためには、どのような顧客に、いかにパーソナライズしていくかについて、企業内でルールを定める必要がある。

図1:CDPが目指すパーソナライズされたコンタクト(米ガートナーのブログ『Customer Data Platforms: Eliminate the Moat Around Your Data』、James Meyers、2018年8月より引用)

 新規顧客が訪問したら、どのような内容を表示するのか。一定以上の購入履歴があるユーザーが訪問したら、どんなオファーを出すべきか。重複するオファーを表示することを避けるため、過去の購入履歴をどのタイミングで参照すべきか--。こうしたルール作りは、現場の収益向上においても、新規事業立案においても必ず考えておくべきものだ。

 「どんな条件の」「どのような顧客に」「どのような提案を行うか」というロジックを描き、それをCDPと紐付けて現場業務やWebサイトに展開すれば、どのチャネルでも一貫したパーソナライズを展開できる。

 パーソナライズのロジックを組み立てるのは、現場を預かる担当者だ。どのようなデータを基に、どのような提案をどのタイミングで行えば相手が喜ぶかを部門のチームで考える。そのプロセスを可視化するために、ぜひ利用したいのがDMN(Decision Model and Notation)という記述法である。

 DMNは、意思決定(Decision)プロセスをフロー図に描き部門で共有するとともに、ITツールに組み込むことで、そのフローをプログラミングロジックに展開できる。DMNに対応してビジネスロジックを実行するITツールも提供されている。

 CDPとDMN対応のロジック実行ITエンジンを中核に、EC(電子商取引)サイトや自社Webサイト、CRM(顧客関係管理)、マーケティングオートメーションなど様々なシステムと連携することで、すべてのチャネルで一貫したリアルタイムなパーソナライズが実現できる。CDPもDMNのエンジンも、容易に組み込めるオープンなアーキテクチャーであることがポイントになる。

法改正は顧客とより深く向き合うことを求めている

 個人情報保護法の改正により、自社や他社のデータを闇雲に収集し、精度がわからないターゲティングをし続ける施策は過去のものになった。今後は自社で顧客データを含めた多様なデータを収集し、それを活用してデータを育てながら、事業成長していかざるを得ないのが現実だ。

 しかし悪いことばかりではない。何よりファーストパーティデータを充実させることは、自社の顧客と、より深く向き合うことにもつながる。それこそが本来の意味でのマーケティングであり、事業成長の礎となる。現状を原点回帰のチャンスととらえ、自社のデータを育てていこう。

小川 裕史(おがわ・ひろし)

サイトコア ソリューションコンサルタント。2009年オムニチュア(現アドビ)入社。以来、複数企業でSaaS型デジタルマーケティングソリューションに特化したコンサルタント/プリセールスとして12年間従事。日本ヒューレットパッカードでは、パーソナライズ・A/Bテスソリューション「Optimost」の日本市場での立ち上げ業務を担当し、多くの企業への導入を手掛けた。2021年8月サイトコア入社。同社事業の新しい柱である「DXPソリューション」ビジネスの日本での拡大に向け様々な業務を担当している。