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嫌われないパーソナライズの実現方法【第3回】

小川 裕史(サイトコア ソリューションコンサルタント)
2022年6月9日

組織の意識と体制がデータ活用に向かえば、いよいよ本格的なデータ活用がスタートする。とはいえ膨大なデータをDMP(Data Management Platform)に集約しターゲティングに使うのでは意味がない。ターゲティングは効率的だが、本当に目指す層を抽出できているとは言い切れないからだ。データ活用の成果をより上げるには、1人ひとりに合わせたパーソナライズが効果的である。ただし“しつこくて嫌われる”パーソナライズではなく“ターゲットに受け入れられる”パーソナライズでなければならない。

 「組織的なデータ活用を始めるぞ!」と張り切って社内のデータを収集し、パーソナライズを始める前に、落ち着いて考えたいことがある。「これまで蓄積されたデータを分析することで、どんな成果を期待しているのか」という点だ。

 第1回第2回で「顧客1人ひとりに最適な体験を提供するためにパーソナライズを実現しよう」と述べてきた。それだけに「期待している成果は何か」と尋ねられれば「もちろんパーソナライズだ」と答えるだろう。もちろんその通りだ。むしろここでは「蓄積されたデータを分析することで」とわざわざ断っている点に注目してほしい。

“過去の深掘り”で未来は見えるか?

 データ分析においては常に「過去の蓄積データを収集して分析しても、それは結局過去の状況を深掘りしただけではないか」という指摘がつきまとう。これは決して間違いではない。金融分野では過去データを基にシミュレーションロジックを組み、未来を予測することはごく一般的だ。だがパーソナライズに関しては過去データへの依存だけでは不十分だ。

 その理由として、わかりやすい例を挙げてみよう。ある人が北海道旅行に出掛けるために、Webで飛行機やホテルを手配した。旅行後にWebサイトにアクセスすると、表示される広告がすべて北海道関連の広告になっている。出張のため大阪行きの新幹線やホテルを取ろうと思っても、旅行サイトのトップページには北海道の情報ばかりが表示される。

 旅行に限らず、例えば炊飯器を購入する時にWebで複数製品を比較検討し、家電サイトで購入したとしよう。すると、しばらくずっと炊飯器の広告ばかりが出てくるようになり、関心が他に移っていても、それが反映されない。

 理由は単純で「過去、その人が関心を持っていたこと」に絞ってパーソナライズしているからだ。結果として「パーソナライズされた良い体験」からかけ離れてしまっている。過去のログデータだけでは、その人が“今”何に興味・関心を抱いているのかがわからない。

 ログデータは、過去のある瞬間の人の興味・関心を可視化する。だが、その人の“今”を知るためには、まさにこの瞬間、その人の行動を反映しているリアルタイムなデータ、すなわちトランザクションデータが必要だ(表1)。ログデータに“現在の行動”であるトランザクションデータを組み合わせることで、その人の状況に合わせたオファーが実現できる。

表1:ログデータとトランザクションデータの例

 先の旅行のケースでいえば、「北海道はすでに訪れた」というログデータと共に、「今、その人は大阪行きについて調べている」というトランザクションデータがあれば、「北海道の情報は表示せず、大阪旅行の情報を表示する」というパーソナライズが可能になる。

 実際、ある保険会社では、コロナ禍で社会環境が変化するなか、過去のログデータに基づくセグメントターゲティングに限界があることを実感したという。投資情報のWebサイトを運営する、その保険会社はコロナの状況下ではサイトの訪問者が、どんな投資や金融商品に興味があるのかの把握に努めてきた。

 しかし現在は、そのWebサイトへのトランザクションデータをログデータと組み合わせ、訪問者の“現在の関心事”を抽出しメールマーケティングに生かすプロジェクトに取り組んでいる。