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  • 顧客価値を高めるためのデータ活用とCDP

マーケティングの原点に立ち返り組織にふさわしい自社データを育てる【第4回】

小川 裕史(サイトコア ソリューションコンサルタント)
2022年7月7日

前回はデータ活用の肝となるパーソナライズの実現をテーマにした。今回は、改めて組織・仕組みを構築する際のポイントと、パーソナライズを実現するIT基盤構築のポイントを掘り下げる。キーになるのは、顧客軸で様々なデータを紐付けるCDP(Customer Data Platform)と、CDPを活用したパーソナライズのための意思決定プロセスを記述するDMN(Decision Model and Notation)の2点である。

 第1回で述べたように、いくら高価で高性能なIT基盤を導入しても、それだけではデータを有効に活用できる組織にはなれない。ITに関する知見や実績に関係なく、そもそも組織として「事業を成長させるために、このようなデータをこのように使いたい」という統一した意識が不可欠だ。

 統一した意識がなければ、個別最適に陥ったり、1部門に閉じた「データのサイロ化」を引き起こしたりするリスクがある。そして組織がバラバラになると、技術的にも組織経営的にも、大きな戦略の下でデータ活用や事業成長を遂げることは難しい。

ピープルサイロがデータ活用の組織力を削ぐ

 では、なぜ統一した意思疎通が取れないのか。それは、ステークホルダー同士のコミュニケーションが取れていない、すなわち「ピープルサイロ」が発生しているからだ。

 ピープルサイロを現場と経営層に当てはめると、実際の業務の課題感については圧倒的に現場のほうが鋭い視点を持っている。対して、事業成長という大きな視点で戦略を組み立てるのが経営層のミッションだ。その戦略立案において、どのようなデータが必要なのか。新たな事業展開に当たり、どのようなデータ戦略が考えられるのか。これらの意思を現場と経営層が共有することが大切だ。

 ピープルサイロを解決し、現場と経営層のギャップを埋められれば、マクロとミクロの視点をもってデータ活用への方向性が確認できる。

 データ連携や活用に消極的な傾向があるIT部門と、データを活用して業務に生かしたいマーケティング部門や営業部門の間での分断もある。IT部門は“安定稼働”というミッションを負っているため、システム負荷がかかる作業や技術的リスクの高い作業はできるだけ避けたい。対する事業部門は、技術的なリスクはわからない。

 そこでは、企業内のデータの流れがどうなっており、どんなデータが、どこにあるのか、活用する場合の技術的なリスクにはどんなものがあるかについて、具体的に互いが共有する必要がある。そのうえで、経営判断によって優先順位を明確にし、可能なところからデータ活用に向けた技術的な準備に入っていくことが望ましい。

CDPで顧客に関するあらゆる情報を紐付ける

 組織の意思統一が図れたら、データ活用のための仕組みを作っていく。ポイントは、「データを活用する → 顧客に良い提案ができる → 売り上げが上がる → その成果を基にさらにデータを蓄積していく」というサイクルを各現場で回していくことである。言い換えれば、データ活用によって、活用できるデータを社内で育てていくということだ。

 自社内に活用できるデータを育てる仕組みを持つことは、今後ますます重要になる。なぜなら2022年4月に改正個人情報保護法が施行され、使用許可を得ずに取得したサードパーティデータの利用が禁止されたからだ。

 わかりやすくいえば、広告配信事業者が収集した配信成果であるクッキーデータなど自社では収集できないデータの利用に制限がかかる。この場合、クッキーデータを売買・利用するには、広告をクリックしたクッキーデータの真の所有者である消費者の許可を取らなくてはならない。

 サードパーティデータは、自社のデータでは足りない要素を補い、より詳細な分析のために利用する。そうして収集した膨大なデータをDMP(Data Management Platform)に集約し、顧客像の可視化に努める企業も多い。その利用が制限されるということは、自社で収集したファーストパーティデータを育てていく必要があるということだ。そこで取り入れるべきがCDP(Customer Data Platform)の概念である。