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エッジコンピューティングがインターネットを次のステージに

Fastlyが「Compute@Edge」で目指すセキュアで高速なエッジ環境の姿

DIGITAL X 編集部
2023年2月15日

エンドユーザーにより近い位置で計算処理を実行するエッジコンピューティングの需要がグローバルに高まっている。CDN(コンテンツ配信ネットワーク)サービスを提供する米Fastlyの共同創業者でCTO (最高技術責任者)のタイラー・マクマレン(Tyler McMullen)氏は「エッジコンピューティングによるリアルタイムでセキュアな処理がUX(顧客体験)を高め、企業の利益を引き出す」と話す。Fastly が目指すエッジコンピューティングの姿などをマクマレン氏に聞いた。

 「米Googleや米Netflixなど世界中にデータセンターを展開できる企業だけでなく、小規模な会社でもエッジコンピューティングを利用できるようにしたいと考えています」─。こう語るのは、米Fastlyの共同創業者でCTO(最高技術責任者)のタイラー・マクマレン(Tyler McMullen)氏。Fastlyは、各種コンテンツを高速に配信するためのCDN(Content DeliveryNetwork:コンテンツ配信ネットワーク)などのサービスを提供している。

写真:米Fastlyの共同創業者でCTO(最高技術責任者)のタイラー・マクマレン(Tyler McMullen)氏

 エッジコンピューティングは、エンドユーザーに近い場所で計算処理を分散型で実行するための仕組みだ。「FastlyのCDNは、全世界に98の配信拠点を持ち、コンテンツの更新やログの取得・解析、応答時間などのすべてでリアルタイム性を追求しています。そのCDNをベースにしたエッジコンピューティング環境『Compute@Edge』は1秒間に数百万のリクエストを処理できるほどに強力です」とマクマレン氏は話す。

ネットビジネスなどの顧客1人ひとりに合わせるパーソナライズ用途が先行

 Compute@Edgeの利用はネットビジネス業界で先行する。例えば、フリマサービスのメルカリは、マーケティング活動で展開するメールの開封率などの分析ための基盤の一部をCompute@Edgeに移行し、作業負荷の軽減と保守性の向上を実現。あるEC(電子商取引)サイトは、収益への影響が大きい応答速度の向上に利用する。

 マクマレン氏は、「エッジコンピューティングは、多くの企業にとって、まだまだ新しいコンセプトです。ですが、大手動画配信会社からは『視聴者の1人ひとりに最適化した広告を配信したい』という相談を受けていますし、金融関連サービス会社からは『セキュリティ要件を顧客ごとにカスタマイズしたい』という要望も届いています。こうした需要が今後、急速に高まっていくでしょう」と話す。

 エッジ環境での実行が期待される技術にAI(人工知能)/ML(Machine Learning:機械学習)がある。マクマレン氏は、「AIモデルを用いた推論にはエッジコンピューティングが向いています。あるソーシャルメディア企業は、記事を読者ごとに最適化して配信するために、読者の好みなどを学習させたAIモデルをエッジ環境で動作させる仕組みを検討中です。こうした処理を数ミリ秒以内に実行することで非常に斬新なサービスが生まれます」(同)

標準化を推進しエッジ用プログラムの開発を容易に

 そうした用途に備えるCompute@Edgeは、Webブラウザー上でプログラムを実行する「WebAssembly」という技術をベースに開発されている。その理由をマクマレン氏は、「プログラミング言語に依存しない高速なエッジコンピューティング環境を構築するためです」と説明する。

 WebAssemblyをベースにしていることのメリットの1つはセキュリティの確保が容易になること。マクマレン氏によれば、「多くのエッジコンピューティング環境が採用しているコンテナ技術は、メリットも多い半面、その起動に時間がかかるほか、セキュアな環境の実現が難しいという側面があります」。これに対しWebAssemblyでは「高度なセキュリティ機能の組み込みが可能になります」とマクマレン氏は強調する。

 もう1つのメリットは高速化だ。「どんな言語で開発したプログラムでも、Compute@Edgeの環境で最速に動作する形式に変換できることは、エッジでのリアルタイム性の確保に大きく寄与します」(マクマレン氏)

 FastlyはWebAssemblyのオープン化に向けた活動にも力を入れている。2019年に標準化団体「Bytecode Alliance」を米Mozillaや米Microsoftらと設立。WebAssemblyのコードからファイルなどにアクセスするための標準仕様「WASI(WebAssembly System Interface)」を定めた。最近は、エッジコンピューティング環境間の相互運用性を確保するための標準として「コンポーネントモデル」と呼ぶ技術を提案している。

 Bytecode Allianceの参加企業は現在、33社を超えた。マクマレン氏は「Bytecode Allianceの標準インタフェースを使う企業が増えれば増えるほど、インターネットの安全性と高速性が向上します。エッジコンピューティングという最先技術を前に私たちは、これまでとは異なる、より優れたインターネットを構築する機会を得ているのです」と期待を寄せる。

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