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  • リアルタイムな応答でCXを高めるエッジコンピューティング

DXの広がりで注目高まるエッジコンピューティング

齋藤 公二(インサイト合同会社 代表)
2023年2月13日

エッジコンピューティングへの注目が高まっている。デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが本格化するなかで、多種多様・大量のデータを収集し、そのデータの分析結果を、よりリアルタイムに現場に反映したいためだ。クラウドへのデータ通信量を抑えたいという目的もある。

 エッジコンピューティングは、ネットワークの端点(エッジ)でコンピューターによる計算処理を実行するための考え方あるいは、その仕組みである。利用者やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)デバイスなど“現場”と物理的に近い場所にコンピューターを分散配置することで実現する。

 コンピューター処理のアーキテクチャーは大きく、中央集権型と分散型とに分けられる。中央集権型は管理・統制が容易な半面、負荷が集中したり端末の自由度が少なかったりというデメリットがある。一方の分散型は、処理を分散でき、端末の自由度や柔軟性が高いものの管理・統制が難しい。

 中央集権型か分散型かの選択は一定の周期で繰り返されている。いずれかが優れているということではなく、その時代のニーズや用途に合わせて、それぞれのメリット・デメリットが比較され、よりメリットを享受できるアーキテクチャーが採用されるからだ。そうした動きの中でデメリットを解消しようとする取り組みが逆の方向に動かしているとも言える。

 その意味でエッジコンピューティングは、クラウドコンピューティングの台頭によって浮上してきたデメリットを解消するための取り組みとして注目されるようになった。モバイルやIoT、AI(人工知能)などの技術が進展し、その利用が広がるにつれ、現場で生成されるデータの取得が容易になったことで、ネットワークへの負荷が課題になってきたからだ。

 具体的には、大量のデータをクラウドへ直接送信するとネットワークに負荷がかかり、クラウド上でのデータ処理も集中する。データの分析結果を現場に返すまでの時間的な遅延も発生すれば、クラウド側での障害が現場を含めたシステム全体に波及することになる。

 これに対しエッジコンピューティングでは、エッジ側でコンピューター処理を部分的に実行しつつクラウドとも連携することで、現場により近い場所でのデータ収集・分析を実行しながらクラウドへのデータ送受信量を最小限に抑える。エッジ側で実行するプログラムによって、現場が求める処理結果を、よりリアルタイムに返せるようになる。

エッジ側で動作するプログラムが特性や機能を決める

 エッジコンピューティングを特徴付けているのは、エッジ側でのデータの集約と、そこでのデータ分析などの処理の実行である。つまり、エッジ側で、どのようなプログラム/アプリケーションを実行するかで、そのエッジコンピューティング環境の特性や機能が決まることになる。

 エッジ側で実行するプログラムとして期待が高まるのが、AI(人工知能)技術を適用するためのアプリケーションである。IoTセンサーやカメラで撮影した映像データなどをエッジ環境でAI処理することで、その場で分析結果を取り出し、現場の変化に即応できるようにする。

 特に最近は、AI技術を使った画像認識の精度が高まってきたことから、カメラにAI処理機能を搭載し「エッジAIカメラ」として利用する動きが増えている。カメラで撮影できる範囲における人や車、ロボットなどの存在や、その動きなどをリアルタイムに把握するなどの用途を想定する。

 データをエッジ側で処理することは、セキュリティの強化にもつながる。機密性の高いデータをパブリッククラウドのような外部サーバーに転送することなく、エッジ環境で自社管理することが可能になるからだ。インターネット経由で外部システムと連携する必要がある場合も、エッジ側でデータを匿名化するなどの加工を施すことでデータの安全性を高められる。

 このことは、ネットワークにかかる負荷の低減にもなる。クラウドに転送するデータ量を減らせれば、ネットワークのトラフィック量を削減できる。トラフィック量が多いと、大量のトラフィックを生み出しているアプリケーションを管理・運用する必要が出てくるが、エッジコンピューティングでは、それらも基本的には不要となる。

 さらに、エッジコンピューティングは5G(第5世代移動通信)との相性も良い。もともとクラウド側で実施する処理の一部をエッジ側で担うことで、データのやりとりやアプリケーションの動作などで発生する遅延は少ない。そのうえでエッジコンピューターとIoTデバイスなどのエンドポイントを5Gで結べば、よりリアルタイム性の高いアプリケーションの開発が可能になる。