- Column
- 物流イノベーションのためのデータ利活用と標準化
加工食品のサプライチェーンの最適化は卸がメーカー・小売りに働きかける
「物流データ利活用フォーラム」より、日本加工食品卸協会の時岡 肯平 氏
一方、物流においては、卸・小売り間では、「納品情報を商品が到着する前に小売り側に渡す仕組みが確立され、その信頼性に基づく『ノー検品』が実施されたり、仕入れについても計上に基づいて支払う『検品レス・請求レス』がある程度進んだりしている」(時岡氏)
ところが卸とメーカーの間では「卸に届く荷物は紙の納品伝票によるやり取りが主流で、伝票に基づき一品ずつ検品し、仕入れを計上しなければならない」(同)。特に、路線便を経由した配送形態に課題が多く、「メーカー・卸間の物流や、卸・小売り間の商流をいかに効率化・標準化するかが課題だ」と時岡氏は指摘する。
種々の課題の解決に向けて日食協は、どう取り組んでいくのか。まず持続可能な物流の構築に向けては、「ドライバーの担い手不足など物流の危機的な状況に対応するため、業界で“当たり前”とされてきたメーカーと卸の間の配送を、翌日納品から翌々日納品に変更するよう要請されている」(時岡氏)
ただ、オペレーションを変えずに納品リードタイムだけ延長すると、「物流サービスレベルを維持できないため、メーカー・卸・小売り間の最適な連携により、スムーズな運用の実現に取り組んでいる」(同)という。
ドライバーの荷待ち時間短縮に向けては、日食協が提供するトラック入荷受付・予約システム「N-Torus」の拠点拡大と機能強化も進めている。N-Torusの稼働拠点数は2022年8月末時点で124拠点、2万6000人のドライバーが利用する。これらを拡大するために「トラックドライバーのID管理統合に対する要望にも応えていく」(時岡氏)考えだ。
全体をつなぐプラットフォームの実現を目指す
一方、サプライチェーンをつなぐデータ基盤の構築に向けては、卸と小売り間の受発注EDIの効率化を図る。具体的には、「EDIの卸側の受け口を、各社個別対応から共通プラットフォームに移行していくことを検討中だ」と時岡氏は説明する。卸・小売間の流通BMSについても利用率が全体で3~4割、小売業では4〜5割なことから、「PSTNマイグレーションへの対応の1つのきっかけに利用拡大を目指す」(同)という。
メーカーと卸の間での物流・情報流の効率化に向けては、「納品伝票の電子化や事前出荷情報である「ASN(Advanced Shipping Notice)」といった物流データの連携がポイントになる」(時岡氏)。「メーカーが商品のASNを卸に送り、データに基づく検品ができる仕組みが成立しなければ効率化は実現できない」(同)からだ。
中小メーカーと卸の間では「受発注EDI基盤の構築も重要」(時岡氏)になる。現状、納品情報はEDIで送信されても現物との紐づけがなされておらず、現物を検品して仕入情報を計上している。そのため共同配送の物流事業者や路線便では、「卸に入る出荷情報をメーカーが把握しているケースが少なく、最終的に卸に、いつ、どういう状況で荷物が入るのかが、なかなか把握できていない」と時岡氏は話す。
これに対する解決策の1つが納品伝票の電子化である。時岡氏は、「電子化によりASNなどの物流データを事前に入手し標準化につなげたい」と語る。FINETなど業界VANも、その利用は大手メーカーにとどまっている。「中小メーカーは、まだ電話やFAXが中心なだけに、卸が主体になり中小メーカーとのEDI基盤を構築し、標準化していくことが重要だ」と時岡氏は指摘する。
その先に日食協が描くサプライチェーンの“あるべき姿”について時岡氏は、「全体をつなぐプラットフォームが構築され、取引基盤は将来的には1つになっていく」と話す(図2)。
時岡氏は「こうした将来像を念頭に置きながら、現状の課題を1つひとつクリアしていかなければならない」と力を込めた。