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横須賀市、日本初のChatGPT導入の知見を生かし行政のイノベーションを目指す

「DIGITAL X DAY 2023」より、神奈川県横須賀市 デジタル・ガバメント推進室の太田 耕平 氏

江嶋 徹
2023年12月12日

活用促進ガイドの発行で文書作成事務の年間2万7200時間相当を削減

 4月20日の実証開始から1週間後の27日には、職員への中間アンケートを実施した。多くの職員からポジティブな反応があった一方、ChatGPTにはあまり向かない検索用途での利用が多いことが分かった。つまり、「利用社側の質問(プロンプト)の精度が低いことが課題に挙がってきた」(太田氏)わけだ。

 そこで横須賀市は、「直ちに職員の利用方法についてテコ入れを図った」(同)。具体的には、ChatGPTの活用を促進するためのガイドとして『ChatGPT通信』を 2023年5月15日に創刊した(図2)。職員のスキルアップを狙い。正しい使い方や注意事項、ミニ問題などを定期的に発信している。

図2:横須賀市が職員向けに発行する『ChatGPT通信』の創刊号。表紙の画像などもAI技術で生成している

 ChatGPT通信を2度発行した後、実証の終了間際の5月27日には最終アンケートを実施した。結果、ChatGPTの用途に向かない検索の利用が減少し、約8割の職員が継続利用にポジティブな意向を持つことが分かった。8割以上の職員は、「業務効率の向上につながる」と回答した。

 利用方法は、文書案の作成や分析、エクセルの作成、アンケート設問案の作成、自己理解のための壁打ちなど、さまざま(図3)。アンケート結果やヒアリングを元に算出した業務短縮時間は、「文書作成事務に限定しても年間2万7200時間に相当した」(同)。この結果を受けて横須賀市は2023年6月5日に全庁への本格導入を決めた。

図3:ChatGPTの利用用途の中間アンケート(1回目)と最終アンケート(2回目)の比較

 本格導入に合わせ「AI戦略アドバイザー」を配置した。同市出身で生成AI分野の第一線で活躍する深澤 貴之 氏である。配置の理由を太田氏は、「生成AIの世界は進化のスピードが速く、公務員の力だけでは到底ついていけない。AI戦略アドバイザーから、さまざまなアドバイスを受けながらChatGPTの活用を進めていく」と説明する。

 活用スキルを高めるために、AI戦略アドバイザーが監修した独自の研修プログラムも実施する。これまでにリアルタイムあるいはアーカイブによる研修に、「横須賀市役所での自主参加型研修としては史上最大の人数」(同)に当たる400人近い職員が参加した。職員の習熟度が高まってきた段階では、「行政に役立つプロンプト(指示文)を発掘するためのコンテストの実施も計画する」(同)

他自治体とも力を合わせ日本の行政にイノベーションを起こす

 横須賀市は今後、ChatGPT導入で得た知見やノウハウを、他の自治体に向けて積極的に伝えていく方針だ。「すでに80を超える自治体から問い合わせがある」(太田氏)という。その一環として、他の自治体が容易に問い合わせられるように、ChatGPTを使ったチャットボット「他自治体向け問い合わせ応対ボット」を開発し、2023年8月16日に運用を開始した。

 同応対ボットの開発では、横須賀市でのChatGPT活用の取り組みに関するデータや、他自治体からの問い合わせデータを追加データベースとして整備した。「ChatGPTの単体機能では答えられない横須賀市でのChatGPTの導入経緯など特定分野の内容にも回答できるようにするため」(同)だ。将来的には、「この技術を市民向け窓口を含め、さまざまな問い合わせ応対ボットに展開したい」(同)考えだ。

 さらに2023年8月29日には、投稿型メディアを運営するnoteと連携協定を締結し、生成AI関連情報を発信するポータルサイト「自治体AI活用マガジン」を立ち上げた。先行する自治体が持つ生成AIの活用ノウハウや、試行錯誤の過程を自治体向けに発信するのが目的だ。「誰もが見られ、どの自治体でも情報発信ができるオープンな環境だ」(同)という。

 自治体AI活用マガジンは、趣旨に賛同した11の自治体が立ち上げメンバーになっている。太田氏は、「生成AIを活用して住民サービスの向上につなげたいという志を持つ自治体であれば、いつでも参加できる。日本全国の自治体の力が集まれば、世界の自治体の手本になる凄いことが起こるのではないかとワクワクしている」と意気込む。

 行政がChatGPTを活用していく方法として、太田氏は2つの道があると考えている。1つは、直接的なChatGPTに対する職員の利用スキルとリテラシーの向上。もう1つは、ChatGPTをパーツとして用いた行政向けツールの開発や改良だ。横須賀市の取り組みで言えば、前者では職員研修やプロンプトコンテストが、後者では問い合わせ応対ボットの開発が相当する。太田氏は「今後も双方を視野に活動を続けていく」と力を込める。

 太田氏は、「横須賀市は、ChatGPT導入の先陣を切った自治体の責務として情報を提供していく。自治体AIマガジンに参加いただき力を結集させることでイノベーションを起こしたい。自治体だけでなく、本気で世の中を変えたいという事業者からの連絡も待っている」と呼び掛ける。

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