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横須賀市、日本初のChatGPT導入の知見を生かし行政のイノベーションを目指す

「DIGITAL X DAY 2023」より、神奈川県横須賀市 デジタル・ガバメント推進室の太田 耕平 氏

江嶋 徹
2023年12月12日

生成AI(人工知能)技術を活用した生産性の向上は自治体業務でも期待されている。神奈川県横須賀市は、AIチャットサービス「ChatGPT」をいち早く導入し、利用状況などの情報発信を積極的に続けている。同市のデジタル・ガバメント推進室 課長補佐の太田 耕平 氏が、「DIGITAL X DAY 2023 生成AIで始める業務改革」(主催:DIGITAL X、2023年9月)に登壇し、ChatGPTの導入経緯や活用のポイント、今後の展望について解説した。

 「すべての始まりは2023年3月29日、市長からの『ChatGPTを使って何か検討できないか』という相談からだった」−−。神奈川県横須賀市 デジタル・ガバメント推進室 課長補佐の太田 耕平 氏は、同氏がAI(人工知能)チャットサービスの「ChatGPT」を導入経緯を、こう明かす(写真1)。

写真1:神奈川県横須賀市 デジタル・ガバメント推進室 課長補佐 太田 耕平 氏

 「やると決めたからには早い方がニュースバリューは高い。日本の“自治体初”を狙う」(太田氏)との判断から、4月18日にはChatGPTの導入を報道発表し、同20日から全庁での実証を開始した。報道発表時のリリースも「素案はChatGPTで作成し、それを強調した」(同)という。

 その発表は、NHKや民放キー局、全国紙や地方紙に取り上げられた。米CNNや中国フェニックステレビ、台湾のテレビ局などからの取材も受けた。太田氏は、「予想以上の反響だった。市役所がこれほど大々的に報道されるのは、不祥事を起こしたときくらいしか思い浮かばない(笑)。市民からもポジティブな反応が多く、シビックプライド(地域への誇りと愛着)の醸成につながる効果も出ている」と話す。

大量文書を扱う自治体業務へのLLMが持つ文書処理能力に期待

 市長からの相談をきっかけに横須賀市がChatGPTを採用した理由を太田氏は、「ChatGPTが採用する大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)が文章を扱えるAI技術だった点に尽きる」と説明する。

 同市が文書管理システムに登録する文書の数は年間約9万件。それ以外にも業務では大量の文書を作成している。情報を正確に記録・伝達するためには「誰が読んでも分かりやすい文章にする必要もある。「これらはLLMが最も得意とする分野であり、自治体業務にChatGPTを活用できる可能性が高いと判断した」(太田氏)

 また当初からChatGPTを全職員に一斉導入したのは、「ITインフラの重要な位置を占めていく新たなテクノロジーを、まずは触ってほしかったためだ」と太田氏は話す。「文書作成業務などの効率化を進め、最終的には利用方法を収集してベストプラクティスを横展開するという狙いもある。それには、全職員に使ってもらった方が話は早い」(同)との判断だ。

 ChatGPTは、既存のビジネスチャットツールとAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)連携させて利用している(図1)。職員が使い慣れているインタフェースを利用できることと、LGWAN(総合行政ネットワーク)環境から利用できるからだ。職員が環境整備前にChatGPTを利用する「シャドーITを防止する効果も見込んでいる」(同)

図1:神奈川県横須賀市は、ChatGPTを既存のビジネスチャットツールとAPI連携させて活用している

 ChatGPT活用時の懸念点として「まず挙がるのが情報漏洩リスク」(太田氏)。ChatGPTを開発する米OpenAIの規約には「AIP連携する場合には学習には使われない」と明記されているものの横須賀市は、オプアウトの手続きをした。そのうえで職員には、機密情報や個人情報を入力しないよう徹底周知している。

 ただ太田氏は、「機密性の高い守秘義務のある情報は書かない、回答は正しいとは限らず最後は人が判断する必要があるなど、ChatGPTを利用するための基本的な情報だけを伝えている。難しいことを伝えると人は利用しなくなるからだ。使い方も一覧にし得意・不得意の分野を伝えながら『絶対やっていけないこと』だけは念入りに周知している」と話す。

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