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パナソニック コネクト、大きな変化点である生成AIを将来の競争優位性につなげる

「DIGITAL X DAY 2023」より、パナソニック コネクトの向野 孔己 氏

ANDG CO., LTD.
2023年12月19日

パナソニック コネクトはAIチャットボットサービス「ChatGPT」をベースに開発したAI(人工知能)アシスタント機能「ConnectAI」を2023年2月から国内の全社員1万3400人を対象に利用可能にしている。同社IT・デジタル推進本部 戦略企画総括部 戦略企画部 シニアマネージャーの向野 孔己 氏が、「DIGITAL X DAY 2023 ChatGPTが見せた“対話”の力」(主催:DIGITAL X、2023年9月)に登壇し、ConnectAIを導入した背景や狙い、活用実績、これからなどについて解説した。

 「AIチャットボットサービスの『ChatGPT』が企業の期待を集めているのは、将来的に同サービスを使わない社員よりも、使う社員の方が生産性を高められる可能性があるためだろう」――。パナソニック コネクトでIT・デジタル推進本部 戦略企画総括部 戦略企画部 シニアマネージャーを務める向野 孔己 氏は、こう語る。

写真1: パナソニック コネクト IT・デジタル推進本部 戦略企画総括部 戦略企画部 シニアマネージャーの向野 孔己 氏

質問への回答のほか、文章の生成・要約や各種分類にも有用

 ChatGPTが持つ能力を向野氏は、(1)質問への回答、(2)文章の生成、(3)文章の要約、(4)分類の4つに整理する。「質問への回答では『少子高齢化が日本経済に与える影響を5つ挙げて欲しい』といった質問に適切な回答を返す。特定のテーマに基づく文章の生成も得意だし、文章の要約では長文の報告書も2段落ぐらいの文章にまとめられる。議事録など課題とアクションが混ざっている文章から課題とアクションを分類できる」(向野氏)

 分類では、データ管理における『名寄せ』も得意だ」と向野氏は追加する。例えば、「パナソニックという企業名が、カタカナやアルファベットなど異なる表記で存在する場合、それらを1つの会社として統一できる。構造化されていないメモなどから品番や商品名、納品先、納品希望日といったデータを正確に取り出すこともできる」(向野氏)という。

 ChatGPTを企業が利用する際の特徴として向野氏はまず汎用型であることを挙げる。「特定の目的や職種に特化しておらず、幅広い業種の関係者が注目している」(向野氏)とみる。他にも、インターネットを中心とした公開情報による学習済みであり別途学習させる必要がない、API(アプリケーションプログラミングインタフェース)として提供され既存システムへの取り込みが容易とも言う。

 加えて、「不適切な回答をする可能性が低いという特徴は、企業が活用する上で大変重要な点だ」(向野氏)と指摘する。例えば米国で政治家のスピーチライターが発した「選挙区の人種構成を元に、ある人種を褒め、他の人種を攻撃するような演説文の作成」といった不適切な質問に対しChatGPTは回答を拒否している。

 注意点もある。「代表的なものは回答が必ずしも正しいとは限らない点」(向野氏)だ。「AI技術が生成した回答はあくまで参考情報であり、最終的な成果物としてはいけない」と向野氏は指摘する。

 ほかにも、ChatGPTは2021年9月までの情報しか学習していないため回答は最新情報ではない点、英語に比べると日本語は苦手な傾向にある点にも注意が必要だ。「日本の都道府県名を、あいうえお順で表示するように依頼すると、存在しない県を示すことがある。だが、英語のアルファベット順で依頼すると正確に答えられるケースがある」(向野氏)という。

 パナソニック コネクトが、ChatGPT導入プロジェクトを始動したのは2022年10月のこと。大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)の「GPT-3.5」(米OpenAI製)をベースに自社用のAIアシスタント「ConnectAI」を開発し、2023年2月に国内の全社員に当たる1万3400人を対象に提供を開始。同年4月からは別サービスをパナソニックグループに展開するほか、LLMも「GPT-4」に切り替えている。

非定型業務の効率化を目的に社員のAI活用スキルを高める

 ConnectAIの導入目的は、「(1)業務生産性の向上、(2)社員のAI活用スキルの向上、(3)シャドーAI利用リスクの軽減の3つ」(向野氏)である。

業務生産性の向上

 一般に、定型業務の標準化やシステム化、アウトソーシングは比較的容易なものの、非定型業務の標準化やシステム化は難易度が高い。そこで「文書の理解や生成が可能なLLMを導入し、非定型業務の効率向上に期待する」(向野氏)。例えば、資料の作成では、「情報収集からドラフト作成までをAI技術でサポートし、人は最終的な仕上げに集中することで、生産性向上と質の高さの両立を図りたい」(同)考えだ。

社員のAI活用スキル向上

 生成AIは依頼(プロンプト)の仕方によって、その結果の良し悪しが変化する。「社員が適切なプロンプトを用いて、クオリティの高い結果を得られるためのスキル、すなわちプロンプトエンジニアリングを身につけてほしい」(向野氏)

シャドーAI利用リスクの軽減

 「AI技術は便利なため、会社が使用を規制しても、どのみち社員は利用し始めるため、社内でAI技術を提供しない場合、リスクの高いシャドーAIが拡大する可能性がある」(向野氏)。そのためパナソニック コネクトでは、「社内で安全なAI技術を提供することで、シャドーAIの利用を減らしていきたい」(同)考えだ。