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パナソニック コネクト、大きな変化点である生成AIを将来の競争優位性につなげる

「DIGITAL X DAY 2023」より、パナソニック コネクトの向野 孔己 氏

ANDG CO., LTD.
2023年12月19日

専用UIやプロンプトのサンプルなどを用意し利用を促進

 これらの目的を達成するためにConnectAIでは、「ビジネス用途に特化したUI(ユーザーインタフェース)を採用」(向野氏)。活用方法に不慣れな社員に向けては、さまざまな職種で利用できるプロンプトのサンプルを約15個用意した。英語による入力のほうが回答の精度が高まるケースも考慮し自動翻訳機能も用意した。ConnectAIが、どの分野での利用を得意にするのかを分析できるよう、ConnectAIが出した回答を社員が5段階で評価できるようにもした。

 ConnectAIの適用領域は「(1)聞くと(2)頼むとに大別できる」と向野氏は話す。「聞く」は、例えば若手社員が販売会議のファシリテーターを任された場合、従来は先輩社員にアドバイスを求めていたが、ConnectAIに、その対応方法を質問するといった使い方だ。法律上の疑問点など専門知識を要する質問により、会議の前の事前準備に利用するといった用途もある。

 ビジネスアイデアの“壁打ち”も「聞く」の領域だ。例えば、大型プロジェクターの販売を提案する際、プロジェクションマッピングや360度シアターといった利用方法のアイデアを得られる。ITサポートでは、特定のソフトウェアの設定方法などを問い合わせるといった使い方ができる。ただ向野氏は「最新情報を提供できない場合がある点に注意する必要がある」と指摘する。

 「頼む」は、例えば研修に関するアンケート結果を「ポジティブ・ニュートラル・ネガティブ」の3つに分けた分析依頼や、製品スペックからの紹介文の生成といった使い方である。「日本経済に関するレポートの序章の作成など、資料の作成サポートも得意としている」と向野氏は話す。実際、社内で実施した1581件のアンケートの分析では「人手なら9時間かかる作業を6分で完了できた。生産性が約90倍に向上したことになる」(向野氏)

 「プログラムの生成も特に得意な分野だ」と向野氏は話す。具体的な要求に基づきコードにアドバイスしたりする。「Excel関数など、ここ数年仕様が変わっていない安定したツールには有用だ」(向野氏)という。

カスタマーサポートや社外秘情報にも回答できる仕組みも検討

 ConnectAIの利用頻度は当初、1日当たり1000回程度を想定していた。だが導入から3カ月で1日当たり5000回以上利用されている。向野氏は「社員が日常的に業務で使用している。不適切な利用についても検知されていない」と話す。利用方法として最も多いのは「質問」で59.7%。それに「プログラミング」(21.4%)、「文書作成」(10.1%)が続く(図1)。

図1:「ConnectAI」の利用項目と社員の評価

 こうした利用状況について向野氏は「生成AIはビジネスに有効だと判断している」と話す。だが一方で、「当社固有の質問や、未学習な最新の公開情報について回答できない。回答の正確性を担保できず、プロンプトの入力にも手間がかかる」(向野氏)といった課題を挙げる。それら課題に対しては、「試験運用という形でシステムを改修しながら改善を続けたい」(同)考えだ。

 その一環として2023年9月には、公開している自社固有情報を学習データに加える「自社特化AI」の実証を開始した。公開している自社のWebサイトから3700ページ分の情報から専用データベースを構築。そのデータベースから質問に対して必要な情報を検索し、その結果を加えたプロンプトを作成しChatGPTに入力し、最終回答を得る(図2)。ChatGPTは、2022年4月設立のパナソニック コネクトの情報を学習していないため、そこを外部データベースにより補う。

図2:パナソニック コネクトが「自社特化AI」で検証している自社データ追加の仕組み

 自社特化AIの検証により、「カスタマーサポート分野や、社外秘の情報についても回答できる仕組みを、2024年度以降は個人の職種や役割に応じて回答できる仕組みの活用をそれぞれ検討している」と向野氏は話す。

 パナソニック コネクトがConnectAIの活用を進める背景は「生成AIは単なる流行ではなく、大きな変化点だ。将来的に競争優位性につながる可能性がある」(向野氏)との考えがある。その上で向野氏は、「現在は米OpenAIが主導的な位置にあるが、技術革新は速く新しい技術が登場してきている。企業は、いかに活用できるかを考えながら、変化に柔軟に対応できるアーキテクチャーを持つことが重要だ」と指摘する。