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  • DXの核をなすデータの価値を最大限に引き出す

領域横断でのデータ活用サイクルの確立がデータの価値をさらに高める【第6回】

佐藤 恵一(日立製作所 公共システム事業部 パブリックセーフティ推進本部)
2024年7月11日

パーソナルデータを安全に扱える基盤が必要に

 介護予防に向けたデータ分析上の課題を解決するためのデータ管理・分析基盤には、どのような機能が必要でしょうか。当社が考える「EBPMビジネスプラットフォーム」を例に説明します。

 EBPMは、「Evidence Based Policy Making(証拠に基づく政策立案)」の略で、政策の有効性を高め、行政に対する国民の信頼確保に資すると期待されている考え方です。その取り組みを支援するための基盤として、EBPMビジネスプラットフォームは、パーソナルデータのセキュアな活用基盤と、介護・健康・医療のビッグデータを対象にしたAI分析技術を提供します(図1、関連記事)。

図1:「EBPMビジネスプラットフォーム」の概要

 パーソナルデータの活用基盤としては、個人が情報を登録・閲覧する機能だけではなく、データ利用に対する同意を管理する機能などが必要になります。同意管理は、時間とともに変化する個人の意思に対応できるよう、再同意や追加同意、同意撤回なども考慮しなければなりません。

 その同意に基づき、自治体(官)のKDB(国保データベース)のデータと、民間企業(民)のPHRを名寄せ・統合します。統合作業を自動化すれば、事業者の負担を大幅に軽減できます。

 統合したデータは、秘密計算技術を使って安全に管理します(第4回)。匿名化したデータを、介護・健康・医療分野のビックデータを対象にしたAI技術を使って分析しエビデンスを構築し、得られた分析結果をEBPMの取り組みに活用します。

 蓄積したデータを外部から安全に利用可能にするオープンAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)も重要です。例えば、健康アプリなどを提供する開発会社は、個別に情報を収集しなくても、オープンAPIを通じて、データを活用する予防サービス開発が可能になります。

 これは、事業者の参入障壁を下げることにもなり、新規参入の活性化や良質なアプリによる住民の継続率向上が期待できます。EBPMビジネスプラットフォームと事業者の業務システムを連携することで、業務効率が高まりコスト削減につながります。

 こういったデータ活用基盤があれば、エビデンスの構築とコスト削減を両立でき、より多くの住民の継続的な参加を促し、十分な予算獲得への道筋が描けるのです(図2)。

図2:EBPMビジネスプラットフォームの活用で実現したい将来の社会

複数領域のデータの組み合わせが付加価値をさらに高める

 介護・健康・医療のデータに、防災分野のデータを組み合わせれば、さらなる付加価値向上が期待できます。例えば、水害発生時には早期の避難が必要になりますが、雨量や河川水位などのモノのデータと組み合わせることで、低地に居住している住民や介護を要する住民に、より適切かつ迅速な対応が可能になると考えられます。

 このように、「ヒトとモノ」「官と民」「介護・健康・医療と防災」など複数の領域にまたがるデータの活用は、データ価値の最大化につながる可能性を秘めているのです。

 これからは、データ活用の進展と同時に安全保障上の脅威が高まっていく時代を迎えます。そのような時代に社会価値を高めていくには、データ活用=攻めとセキュリティ確保=守りの両輪を回していかなければなりません。本連載がデータ活用の取り組みへの一助になれば幸いです。最後までご覧いただいたことに感謝するとともに、皆さまのご成功を祈念いたします。

佐藤 恵一(さとう・けいいち)

日立製作所 公共システム事業部 パブリックセーフティ推進本部 パブリックセーフティ第二部 部長。2000年日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社入社。2009年大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻博士後期課程修了。同年に秘匿情報管理サービス「匿名バンク」を事業化。産業・金融・公共・ヘルスケア分野に高セキュアなクラウドサービスを展開。2015年日立製作所へ転属、2024年4月1日より現職。現在は「匿名バンク」事業推進を主として、公的機関や民間企業向けのITコンサルティング業務などにも従事。情報処理安全確保支援士。一般社団法人遺伝情報取扱協会理事。博士(工学)。