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- DXの核をなすデータの価値を最大限に引き出す
データ活用サイクル・ステップ3:データが出す価値【第5回】
前回は、データ活用サイクルのステップ2である蓄積段階の取り組みについて説明しました。今回は、収集・蓄積したデータを活用するステップ3でデータが生み出す価値について、その具体例である医療分野におけるデータベースである「疾患レジストリ」を挙げながら説明します。
データの価値は、そのデータを活用できる用途によって決まるといっても過言ではありません。用途がなければ、そのデータの価値はないに等しく、たとえ少量でも非常に役に立つデータであれば、その価値は高いといえます。従って、(1)収集、(2)蓄積、(3)活用からなるデータ活用サイクルがうまく回り、データが活用できる用途が広く有意義で役に立つほど、そのデータの価値は高まります。
医療分野でのデータの価値を高める「疾患レジストリ」
データ活用サイクルがうまく回っている事例に、「疾患レジストリ」があります。疾患レジストリは「患者が、どのような病気で、どのような状態か」などを管理するためのデータベースです。主に患者さんや医師が入力したデータを、疾患レジストリの運営事務局やCRC(Clinical Research Coordinator:臨床研究コーディネーター)などの専門家による確認などを経ることで、データベースの信頼性を高めています。
蓄積されたデータは、市場性評価のための患者数把握や、臨床試験の実現可能性調査、試験に参加する患者の募集などに活用されています。例えば、患者数が少ない希少疾病である「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」の治療薬開発に向けた国内での医師主導治験では、神経・筋疾患のレジストリを用いることで患者を効率的に集めることができ、承認にまで至りました。
疾患レジストリを使うことで、従来の方法よりも迅速かつ非常に安価な試験が実施できたという報告もあります(『製薬企業における疾患レジストリの利活用と患者参画型レジストリの動向』、日本製薬工業協会)。つまり、疾患レジストリに蓄積されているデータの価値は高いと言えるでしょう。
疾患レジストリでは、インターネットを活用しながら(1)収集、(2)蓄積、(3)活用のデータ活用サイクルを回し、データの価値を高めています(図1)。データ活用による価値を高めるために、各段階での取り組みを説明します。
(1)収集段階での取り組み
患者や医師が直接、データを提供・収集することで、由来をたどれるデータを入手できます。加えて、疾患レジストリの運営事務局が継続的にサポートすることで、より同じ尺度のデータを長期的に収集でき、CRCなどの専門家が内容を確認することでデータの精度を高められます。第2回で説明したように「精度」と「由来」を担保することで信頼性の高いデータを収集しているのです。
長期的にデータを収集するためには、入力者の負担軽減も重要です。具体的には、データ項目を必要最小限に絞ったり、データ入力画面にラジオボタンやプルダウンといった選択方式を採用したりすることや、電子カルテなどの他のデータソースとの連携などが考えられます。