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  • 工場のレジリエンスを高めるためのセキュリティ対策の実際

機能の導入だけで安心せずOTとITが交流し継続的な更新が不可欠【第3回】

市川 幸宏、松尾 正克(デロイト トーマツ サイバー)
2024年9月13日

製造機器と人に対する定期的なメンテナンスと交流が不可欠

 OT技術者はエンジアリングの専門家であり、さまざまな知識を有している。だが専門外のセキュリティについては十分とは言い切れない場合が多い。一方、IT技術者は、上に挙げた脆弱性については情報収集していることがあっても、修正パッチなどの適用について、設備の稼働状況に影響を与えることが多い現場設備に対して強く進言できない。両者のミュニケーション不足により、製造現場へのOTセキュリティをうまく適用できない場合が多い。

図3:OT技術者とIT技術者の課題

 これらの課題を経営者も理解できていない場合も多い。それだけに、全体最適化を図る動機が誰にも働かないことにも注意が必要である。現場のトップの強い関与がなければ、OT技術者とIT技術者の課題の解決は難しい。

 多くのケース、特に日本では「OTはOT、ITはIT」と縦割りの構造になっていることが多く、異なる文化の交流がしづらい雰囲気がある。OT側では、セキュリティを自工場に関係あるものとして扱うことや、IT側を課題だけを持ってくる組織や人として誤解しないことが大切である。

 IT側では、セキュリティはITの領域だけでなんとか対応するのではなく、OTの領域まで踏み込むことが大切だ。具体的にはOTの運用や技術の習得である。OT側は“現場”をとても大切に考えており、表面的な対応を見抜くことが多い。OT側の苦労や大変さを把握することが、セキュリティの維持管理には必要不可欠である。

 OTとITの文化交流を図りながら、互いの課題感や自工場に関する重要性を共有し、セキュリティの更新に継続的に取り組むことが大切である(図4)。

図4:OT技術者とIT技術者が文化交流を図り縦割りを脱却する

 特にOTには古くから「ISO9001」のような品質重視の文化、つまり「品質は組織を挙げて継続して改善をし続けなければならない」という文化が根付いている。この文化をセキュリティにも広げ、品質および安全に適用することは、少しの努力で可能であり、なんら難しくないことだと考える。

 次回からは、セキュリティの“教科書”とされている国際標準や公開ガイドラインを題材に、効果的なセキュリティ投資の方法を解説していく。

市川 幸宏(いちかわ・さちひろ)

デロイト トーマツ サイバー サイバーアドバイザリー スペシャリストマスター。徳島大学大学院工学研究科知能情報工学専攻博士前期課程修了。日系総合電機メーカーを経て、デロイト トーマツ サイバー入社。製造業、自動車メーカー、医療機器メーカーなどのセキュリティ支援事業に従事している。TC65/WG10 国際エキスパート、TC65/WG20 国内審議委員。共著に『IoT時代のサイバーセキュリティ―制御システムの脆弱性検知と安全性・堅牢性確保』(NTS、2018年)がある。

松尾 正克(まつお・まさかつ)

デロイト トーマツ サイバー <肩書入る>。九州大学大学院工学研究科応用物理学専攻修士課程修了。日系総合電機メーカー、監査法人トーマツを経て、デロイト トーマツ サイバー入社。自動車、建設機械、医療機器、IP電話、FAX、プリンタ、複合機、決済端末、決済端末、インターホン、監視カメラ、車載や住宅のスマホ鍵など、さまざまなIoT機器のリスクアセスメント、設計コンサル、開発を担当。OTセキュリティでも多数のコンサル経験がある。他に、組み込み機器用の暗号モジュール開発や耐量子暗号、量子暗号通信、秘密分散技術の研究・開発・コンサルティングを経験。