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  • 技術革新と制度改革で進む医療DXの現在と展望

「医師の働き方改革」に向け生成AIが起こすイノベーションの中身

「第3回 メディカルDX・ヘルステックフォーラム 2024」より、日本マイクロソフト 医療・製薬本部 本部長の清水 教弘 氏

岡崎 勝己(ITジャーナリスト)
2024年11月20日

 その一例が、看護記録からの看護サマリーの作成だ。使い方は至ってシンプルで、看護記録とともに「あなたは看護師です。看護記録より看護サマリーを作成してください」というプロンプトを生成AIに入力すれば良い。

 生成AIが生成した看護サマリーを見ると、元の看護記録では日々、断片的に記されていた情報が、「患者の基本情報」「初めの症状と確認事項」「入院中の処置」「現在の状態」「今後の対応・処置」の5項目にまとめ直されている(図2)。

図2:日々、断片的に記録された看護記録を適切な粒度でまとめ直し看護サマリーを生成する

 清水氏によれば、この結果を元に医師や看護師などにヒアリングしたところ、「完璧ではないが一から作るより、はるかに楽になる」との返答が得られた。「作業時間もわずか10秒ほどであり、効率化の大きな一歩になるはずだ」(同)

 対象になる文章はほかにも、ヒヤリハットレポートや患者レポートなど多岐にわたる。使い方は看護サマリーの作成と同様に、元になるデータと共にプロンプトを入力すれば良い。

レントゲン写真などの読影や来院者の案内業務などにも適用可

 文書だけでなくChatGPTは、「レントゲン写真や心電図、内視鏡などの検査画像を読み解く読影の支援にも大いに力を発揮する」と清水氏は力を込める。肺のレントゲン画像データを読み込ませたうえで、「この画像から医師が診断すると予想する所見を教えてください」と指示したところ、生成AIは「肺の異常」「気胸」などの所見を「肺の陰影」「肺の部分的な縮み」といった具体的な根拠を基に提示したという(図3)。

図3:ChatGPTは医師の読影支援にも大いに活用が見込める。レントゲン画像から具体的な根拠と共に、医師が診断すると予想される所見を挙げている例

 医療・看護現場だけでなく、病院内の種々の業務にも利用できる。清水氏は「今すぐ始められる活用法としてアバターによる院内案内」を挙げる。Azure OpenAI Serviceに「Azure Avatar」機能を組み合わせれば、「来院者などへの情報提供が容易に実現でき、病院スタッフの負荷も、それだけ抑えられる」(同)とする。

 生成AIは登場してまだ間がない技術だけに課題も少なくないのは事実だ。回答精度を高めるためには、「データにタグ付けする『アノテーション』において、ミスや悪意による誤登録の排除が欠かせない」と清水氏は指摘する。今後、社会的な利用の広がりを踏まえれば「ダイバーシティなどへの配慮も不可欠だ」(同)という。

 利用者や社会から信頼されるAI技術の実現に向けマイクロソフトは6つの開発指針を策定済みだ。(1)Fairness、(2)Reliability&Safety、(3)Privacy & Security、(4)Inclusiveness、(5)Transparency、(6)Accountabilityである。清水氏は「この倫理基準を基にAI開発を加速させ、医師の働き方改革、ひいては社会的な価値創出を実現したい」と意気込む。

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