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- データ活用を最優先するITモダナイゼーションの新常識
データ活用時代のITモダナイゼーションで効果を高める

DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みにおいて、その重要性が改めて指摘されているのがレガシーシステムを対象にしたITモダナイゼーションである。当初は「2025年の崖」としてオープンシステムやクラウド環境への移行、ERP(企業資源管理)システムの最新版への刷新などが強調された。だがDXの成果を高めるためには、レガシーシステムが持つデータの活用や運用コストの低減などが、より喫緊の課題になっている。その観点から本稿では、ITモダナイゼーションのあるべき姿を考察する。
ITモダナイゼーションが必要とされる理由は、いくつかある。最大の理由の1つは、長年使用してきたレガシーシステムのベンダー保守が終了になることだ。たとえ利用企業がシステムをモダナイズする必要性を感じていなくとも、その刷新は避けられない。
近年の例で言えば、多くの企業が利用する独SAP製のERP(企業資源管理)ソフトウェア「SAP ERP 6.0」の保守サポートが2027年に終了する。それを受け、SAP ERP 6.0の利用企業は、基幹システムを最新版の「SAP S/4HANA」などへ切り替える作業を進めている。
同様に、富士通製メインフレームの製造・販売も2030年に終了し、2035年には保守サポートも終了する予定である。富士通製メインフレームの利用企業は、そのモダナイゼーションを急がなければならなくなっている。
一方、保守サポートの期限に問題がないとしても、メインフレームなど、メーカーの独自技術をベースにするプロプライエタリなシステムにあっては、その維持コストが総じて高いといった課題がある。レガシーシステムの維持コストを可能な限り引き下げることも、モダナイゼーションが必要な理由の1つである。
アプリケーションの問題もある。レガシーシステムでは、事務処理用の開発言語「COBOL」などを使ってアプリケーションを開発し、メーカーの独自OS(基幹ソフトウェア)上で運用しているケースが多い。それを長年にわたって機能拡張を繰り返した結果、アプリケーションが肥大化・複雑化しているのが実状だ。
加えて、プログラムの仕様が文書として完全な形で残っていないことが珍しくない。アプリケーションの仕様を把握していた技術者も、定年退職などにより利用企業あるいは開発を請け負ったシステムインテグレーターなどからもいなくなるにつれ、アプリケーションはブラックボックス化し、その維持や機能の追加・変更が困難になっていく。こうしたブラックボックス化の解消は利用企業にとって大きな課題の1つだ。
同様に、メインフレームなどのレガシーシステムは、OSやデータベースのアーキテクチャーが独自であり、データを利用する際にSQLなどのオープンなクエリー言語による操作が難しいという課題がある。そのためレガシーシステムが持つデータが、そのシステム内で閉じてしまうサイロ化が起こり、データを活用によりビジネスを変革するというDXの足かせにもなっている。
例えば、経済産業省が2018年9月に公表した『DXレポート ~IT システム「2025 年の崖」克服とDXの本格的な展開~』はDXの阻害要因として、レガシーシステムの維持コストの高さ、アプリケーションのブラックボックス化、データのサイロ化を挙げて、ITモダナイゼーションの推進を強く呼び掛けた。
DX先行企業はITモダナイゼーションを確実に実施
レガシーシステムのITモダナイゼーションがDXの大きな推進力になる可能性は高い。2024年5月にIPA(情報処理推進機構)と経産省が共同で公表した『デジタルトランスフォーメーション調査2024の分析』によれば、DXに意欲的に取り組み企業価値を高めている「DX銘柄」の認定企業の90%以上が、既存システムと新システムとの間でスムーズなデータ連携を実現している(図1)。
IPAが2024年にまとめた『DX動向2024』では、DXで成果を上げている企業では「全社で(データを)利活用している」あるいは「事業部門・部署ごとに(データを)利活用している」とする企業が70%を超えている(図2)。DXで成果を出せていない企業の回答比率と比較すれば、30ポイント以上高かった。
これらの調査結果からも分かるように、レガシーシステムにおけるデータのサイロ化をITモダナイゼーションによって解消し、DXあるいはデータ活用を推進できれば、企業は相応のビジネスメリットが得られることになる。
ITモダナイゼーションによってシステムの維持費を低減できれば当然、企業の利益率はアップする。アプリケーションのブラックボックス化も解消できれば、業務システムのサステナビリティ(持続可能性)は高まる。少子高齢化社会にあってシステム担当要員の確保が難しくなる中で、システム維持のために最近では新規開発での利用が少ないCOBOLなどの開発言語を学ばせるという、ある種の二重投資を避けられる。