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  • 今こそ問い直したいDXの本質

そもそもビジネスパーソンにITの知識は必要か【第28回】

DX人材像がイメージできないあなたへ

磯村 哲(DXストラテジスト)
2026年8月28日

知識は課題解決のチャンスを自ら見逃さないためにある

 このように、翻訳者に頼り切らず、自らコミュニケーションすることの重要性はある程度、理解いただけると思います。そのうえで「なぜビジネス部門がIT知識を身に着けるべきか」と問われれば、知識を身に着けることで物事の見方が変わるからです。

 ITに関する知識があれば、例えば、インターネット経由で使う機能のことを「クラウド」と呼ぶとき、どこかインターネットの先にサーバーがあり、そこの機能を使うことを思い浮かべるでしょう。その際に「そのサーバーは、どこの国にあって、世界のどこからでもアクセスできるのか。機能は自動で最新になるのだろうか」といった想像が広がり、自分のビジネスへの応用の形が見えてくるかもしれません。

 あるいは、その機能を「SaaS(Software as a Service)」と呼ぶとどうでしょう。「“as a Service”というけれども、サービスとは何なのか。ソフトウェアの配布とは何が違うのか。ソフトウェア以外に“as a Service”として提供されているビジネスモデルはあるのだろうか」などを考えるかもしれません。

 あるいは単に「アプリ」と呼んだとき「スマートフォンのアプリと何が違うのか。むしろスマホで使えるようにならないのか。普段使うアプリの中で使えたりしないのか」などと想像することでしょう。

 こうした発想の広がりは、普段から自分たちのビジネスについて深く考え、そのありようをいつも模索しているビジネス部門にしか持ちえません。外部環境の脅威と機会、自らの強みと弱み、顧客の本質的なニーズなどを事前に徹底的に考えているときにこそ、デジタルは競争優位の強力な実現手段として舞い降りるのです。

 すなわち、DXを遂行するに当たってITの知識が必要なのは、ビジネス部門の人たちがITの実務的に活動するためではありません。そうではなく、ものの見方を広げ、いま自分たちが抱える問題、あるいは自社の将来のために打つべき施策に関して、その実現手段が目の前にぶら下がっているにも関わらず、みすみす見逃すことのないようにするためです。一般的な業務を担っている現場のビジネスパーソンには、意図的に異分野の勉強をしない限り見えてこない景色があるのです。

磯村 哲(いそむら・てつ)

DXストラテジスト。大手化学企業の研究、新規事業を経て、2017年から本格的にDXに着手。その後は中堅製薬企業等でDXに従事し、現在は準大手ゼネコン企業のDX・IT責任者を務める。専門はDX戦略、データサイエンス/AI、デジタルビジネスモデル、デジタル人材育成。個人的な関心はDXの形式知化であり、『DXの教養』(インプレス、共著)や『機械学習プロジェクトキャンバス』(主著者)、『DXスキルツリー』(同)がある。DX戦略アカデミー代表。