- Column
- 今こそ問い直したいDXの本質
そもそもAIを中心に物理世界を見ることはできるのか【第26回】
AIの広がる姿が想像できないあなたへ

生成AI(人工知能)技術の登場以降、前回取り上げたAIエージェントは元より、至るところにAI技術が組み込まれようとしています。人型ロボットに象徴されるフィジカルAIが話題ですが、今回は、AI技術があらゆるモノを制御するという概念である「AI of Things(モノのAI)」を考えてみます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)に携わっている方なら「Internet of Things(IoT:モノのインターネット)」は、もう聞き慣れた言葉の1つでしょう。この言葉が話題になったのは、2012年に米調査会社のGartnerが、テクノロジーの定着過程を示す「ハイプサイクル」で取り上げたのがきっかけです。
当時、筆者は「何というか変な名前、正しい英語なのかな」と思った記憶があります。同じことを競争戦略で著名な経営学者マイケル・ポーター氏も感じたようです。米ハーバード・ビジネス・レビュー誌の記事のなかでは「Internet of Things」を「Smart Connected Products」と言い換えています。「物理世界の話をしているなら、要するにモノでしょ」といったことだと思います。
しかし筆者はその後、考えを改めました。IoTはインターネットが主語になっているように、それこそが主題なのです。まずインターネットがあり、それがモノの世界に進出した。「インターネットこそが世界を変える」と思っている人々にとっては、まさに、そういう世界観なのです。
少し話が逸れますが、物流の世界では「フィジカルインターネット」というコンセプトが語られています。こちらの主題はインターネットではありません。インターネットのパケット通信にヒントを得て、より柔軟で効率的な物流を目指すものです。であれば「パケット物流」といった名称の方が正確なのではないでしょうか。
話を戻します。IoT はインターネットを主語にした拡張概念です。インターネットは世界中がリアルタイムにつながり、双方向に通信でき、新しい参加者に開かれている場です。その場にモノがつながり、参加者として加わったというのがIoTの世界観です。インターネットの世界において、サイバー由来の情報も、物理世界由来の情報も等価に扱われ相互に作用します。その情報の入出力が物理世界の方がふさわしい場合に、モノが使われるという順序です。
モノ中心の視点で考えると「AI Powered Products」になる
IoTの世界感を想像したまま「AI of Things」を考えてみてください。サイバー世界では今、原始的なものから高度なものまで、さまざまなAI技術が使われています。「AIはビッグデータの子供」という言葉があるように、基本的に現在のAIシステムはデータを基に動作することが多いため、AIシステム同士はインターネットを介して、つながっていることが多いでしょう。データを統合してビッグデータ的に解析するものもあれば、分散配置されたAIエージェントが通信していることもあります。
そんなAI技術が物理世界に進出するのがAI of Thingsです。AIシステム同士はデータを介して、あるいはAIエージェント間のコミュニケーションを通じて連携しています。そこにモノが参加するのです。
ここで、くれぐれも勘違いしてはならないのは、IoTの本質が「Smart Connected Products」ではないように、AI of Thingsの本質も「AI Powered Products」ではないことです。もちろん単品のロボットや車がAI技術によって高性能になることはあります。
しかし、Smart Connected Productsという見方ではインターネットのポテンシャルを最大化できないように、AI Powered ProductsではAI技術の力を十分には活せません。AI技術を中心に、物理世界を一つの手段として見ることが必要なのです。これは、第13回と第14回で触れたサービスドミナントロジック、つまりモノそのものに価値があるのではなく、受け手に届いたときに価値が現れるという話とも関連があります。
簡単な例として、エアコンの温度調整を考えてみます。AI Powered Productsなら、エアコン本体に高性能なセンサーや計算機を積んで快適な空間を作ろうとするでしょう。しかしAI of Thingsでは、エアコンのある部屋に、たまたま置いてあるスマートフォンやリモコンなどのセンサーデータから温度分布を推定したり、部屋の隅にあるサーキュレータとエアコンを連動させたりして空調を実現します。AIが主語だという形で物理世界への干渉がイメージできるでしょうか。