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そもそも社内のDX専門組織に必要な知識とは何か【第29回】

DX人材像がイメージできないあなたへ

磯村 哲(DXストラテジスト)
2026年9月11日

抽象化を進めれば経営学に行き着く

 さらに抽象化を進めてみましょう。そもそもビジネスにおけるパターンとは何でしょうか。それは、企業活動をよく観察し分類した結果です。さらには、置かれた状況や背景なども類型化することでもあります。それはすなわち経営学にほかなりません。

 経営学を筆者は、戦略や組織をはじめとする、さまざまな企業活動をつぶさに、かつ大規模に観察し、結果的に見出した共通要素や、その原因を論じる学問だと理解しています。DXを包括的に論じた研究は、まだ少ないかもしれませんが、要するにDX推進の専門家が身に付けるべきスキルは経営学の類であると言えるでしょう。

 例えばマーケティングのDXを考えるとき、その商品や自社の顧客、ブランドイメージ、営業部隊の特性などの知識に関して、自社のマーケターを超えることはありません。その理由は先に述べたとおりです。しかし、いきなり機械学習の知識を披露したり、唐突にデジタルマーケティングの事例を振りかざしたりしても、何のインパクトも与えられません。問題と解決策は合致しないし、それ以前に提案の意味が伝わらないからです。

 ですから、まず自社の状況を聞いて理解しないといけません。「どういう競争戦略を取っているのか」「他社と比較してケイパビリティは勝っているのか」「ブランド的にどのポジションと位置付けているのか」「営業リソースはどの程度か」などを構造的に理解し、まずはデジタルより一段上の目線でビジネスの大きな課題を共有します。

 そのうえで、その課題を解決してきたような事例、あるいは、その課題を解決できそうな技術を説明します。一足飛びに解決策に飛びついても、大抵は後で勘違いが判明します。いきなり詳細を話しても、解決後にインパクトの小さな問題と判明するのです。

 そうではなく、「目の前のビジネスは、そもそも何なのか」「本当の課題は、どこに隠れているのか」をいったん一般化し、双方が納得したうえで各論に戻る。これをしない限り、労多くして益の少ないDX活動を繰り返し、いずれ見限られることになるでしょう。

DX専門人材は「新しいものの見方」を提供するためにある

 ビジネス側の人に「語るに足る」と思われなければなりません。その価値は、ビジネスの本質的な理解を提供することにあります。「本質的」というのが言い過ぎなら「新たなものの見方」と言う方がいいかもしれません。

 各論に関しては自分の方が詳しいにもかかわらず、その人と話すと現状が整理され、長年やってきた仕事にも新たな発見がある。そう思われるのが理想です。そして、その新たなものの見方が、そのままデジタルという解決策につながっていれば、DXの成功は約束されたようなものです。

 しかし一部の営利主義が行き過ぎたコンサルティングファームは、そこにトリックを仕込んでいます。売り込みたいソリューションに合うように現状の解釈を捻じ曲げることがあるのです。大抵は一部を誇張し一部を過小評価することで印象を誘導する形です。

 そうした工作が露見すると「語るに値しない人」にカテゴライズされ、二度と信頼は回復できなくなります。コンサルティングファームなら出入り禁止で済みますが、内部のDX専門組織ではそうはいきません。

 幸いなことに、外部の営利企業とは違い、社内のDXチームはビジネス側と利害を共有する“同じ船”に乗っており、DX活動を自己目的化するような誘導工作をする理由はないはずです。だからこそ素直に価値のある提案ができるのですし、そうしなくてはならないのです。

 少し長くなってきたので結論をまとめます。DX専門組織の人は、ドメイン知識でビジネス側の人に追い付くことはないと思われます。しかし、ITの知識のみにとどまっていてはDXは進みません。従って何らかの形で、その分野のビジネスの話ができる必要があります。

 そのためには事例が有効です。有名な事例の印象に引きずられ短絡することがないよう、多くのケースからパターンを見出しておかねばなりません。また経営学も有効です。ビジネスをパターン化し原因や対応策を論じるにあたり、経営学の知見を使わない手はありません。

 これらの知識をもって問題の大局をとらえ、新たなものの見方を共有したうえで、おもむろに解決策を論じるという順序が重要です。そういったコミュニケーションを通じて、ビジネスを営む人々の世界観が変わらなければ、解決策は単なるツール導入の域を出ないでしょう。

磯村 哲(いそむら・てつ)

DXストラテジスト。大手化学企業の研究、新規事業を経て、2017年から本格的にDXに着手。その後は中堅製薬企業等でDXに従事し、現在は準大手ゼネコン企業のDX・IT責任者を務める。専門はDX戦略、データサイエンス/AI、デジタルビジネスモデル、デジタル人材育成。個人的な関心はDXの形式知化であり、『DXの教養』(インプレス、共著)や『機械学習プロジェクトキャンバス』(主著者)、『DXスキルツリー』(同)がある。DX戦略アカデミー代表。