- Column
- 今こそ問い直したいDXの本質
そもそも社内のDX専門組織に必要な知識とは何か【第29回】
DX人材像がイメージできないあなたへ

前回、「ビジネスパーソンにITの知識は必要か」との問いに対し「IT活用の機会を見逃さないために必要だ」と述べました。では社内のDX(デジタルトランスフォーメーション)専門組織にも求められる知識は何でしょうか。ビジネス側の人々が業務知識にプラスしてITの知識を勉強する間に何を学べば良いのでしょうか。
DX(デジタルトランスフォーメーション)専門組織というのは、改めて言語化すると難儀な存在です。これまで事業に打ち込んできたビジネス側の人たちが、知恵と努力で積み重ねてきたビジネスモデルやビジネスプロセスに対し「もっとデータを使え」や「違うやり方がある」「未来予測が足りない」さらには「意思決定プロセスに問題がある」など、要するに“いちゃもん”を付けるような存在だからです。
少しDXに詳しいからといって、そんなことを言う資格があるのでしょうか?そんな人々の言うことに耳を貸す価値があるのでしょうか?もちろん「ある」と言ってもらわなければなりません。それに値する能力を持たなくてはならないのです。では、その能力とは何なのでしょうか。
そもそも、ビジネスのやり方について詳しいのは現場であり、マネジャーであり、経営者です。DX担当がいかに学ぼうとも、歴史的経緯や過去の失敗などを含めた背景を完全に理解できるわけではありません。ビジネス側の人々と意見交換し、懇親会を開き、人材交流をしてみても、現場が持つ“ヒリヒリする肌感覚”の鋭さに追い付く日は来ないでしょう。
仮にビジネス部門からDX専門組織にキャリアを移したとしても、いつまでも現場の感覚を研ぎ澄ましていられる訳ではありません。つまりDX専門組織の人間が、その分野のドメイン知識に関して対等になる日は訪れず、突っ込んだ話をする相手としてすら十分に認めてもらえないかもしれません。
膨大な事例と、そこに見出したパターンが重要な武器に
DX専門組織がもつべき能力の1つは、もちろんITの知識です。比類ないITの知識、本質的な理解と自由自在なソリューション提案能力は、ビジネスを十分に助けられます。ですが今回は、その話をしたいのではありません。なぜなら、ITの知識だけではDXを成功に導けないからです。ビジネスとITを本質的に接続し、高いレベルで一体化させねばなりません。そのために必要な能力は何でしょうか。
ビジネスとITを一体化させるためのヒントになるのが事例です。特に成功事例は「ビジネスの問題をITで解決した」という実績であり、問題定義と解決手段が合致する(Problem-Solution Fitしている)という難しいハードルを乗り越えているからです。
しかし、わずか数例の成功では何かを語ることはできません。全ての企業、全てのビジネスは何らかの点で固有であり、成功に至る背景を有します。その背景を詳細に理解するためには、その場に居合わせなくてはなりませんし、問題解決前の状態を体感していないといけません。ですから、少数の成功事例は確かに参考にはなるものの、それ以上に頼れる存在ではありません。
能力のあるコンサルティングファームは、多数の事例を知っています。成功にも失敗にも関わっています。それらの経験を有するがゆえに、外部で見聞きした理解よりも深く、より状況に合った処方箋を提供できるのです。
加えて、事例を数多く知っていると、そこにパターンが見えてきます。パターンとは抽象化であり、その結果として未知なる問題に適用できるものとなります。パターンを意識して目の前の状況を分析することで、未来像や対応策が見えてきます。
つまり、数多くの事例を知れば知るほど、安直な当てはめに陥ることなく、さまざまなパターンと照合して複数の未来シナリオを描け、骨太な対応策を立案できるようになるのです。
ですから、DX専門組織の担当者は事例を知らねばなりません。表面的な成功像ではなく、その背景を可能な限り理解し、わずかの華々しい例だけでなく地味な数多くの試みを収集し、同業だけでなく広い分野の活動を知らねばなりません。
そのうえで、自社の現状を目の当たりにしたときに、参考になるパターンが、いくつも思い当たるようにならなければならないのです。ビジネス側が本気で解決したいと考えている問題に対し、短絡的な思い付きで問題を矮小化することなく、さまざまなパターンの組み合わせを試せるようになっていることが重要です。