• Column
  • データ分析/生成AI活用を成功に導くためのデータ連携入門

AI活用では社内の“奥”にあるデータつなぐ必要がある【第9回】

高坂 亮多(セゾンテクノロジー CTO)
2026年5月13日

アプローチ2:間にデータ連携を挟む

 もう1つの方法は、AIシステムと基幹システムの間にデータ連携の仕組みを挟むことです。AIシステムがデータに直接触れるのではなく、定義された処理を呼び出す形でデータを取得します(図3)。

図3:AIシステムは基幹システムのデータには直接触れず、定義された処理を呼び出してアクセスする接続方法

 この仕組みのメリットには以下があります。

●アクセスできるデータを制御できる
●業務ロジックを保ったままデータを扱える
●呼び出しの単位で責任を分離できる

 最近では、AIシステムが外部の機能を呼び出す、いわゆるツール呼び出しの仕組みも広がるなど、より現実的な手法になってきています。ここで重要なのは「どのように呼び出すか」よりも「何を呼び出せる状態にしておくか」です。多くの場合、その処理は業務に合わせて事前に用意します。例えば以下などです。

●特定条件でデータを取得する処理
●業務ロジックを含めた計算処理
●安全にアクセスできる形に整形する処理

 これらは、データ連携やETL(Extract:抽出、Transform:変換、Load:格納)の中で作り込まれてきた処理と本質的に同じです。AIシステムは、これらの処理を直接実装するのではなく、呼び出す形で利用するのです。

アプローチ3:意味検索と直接検索を使い分ける

 AI技術の活用では、データ間の意味の近さで探す手法である「ベクトル検索」がよく使われます。いわゆるRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)の一部です。ただし、業務データの活用では別の側面も見えてきています。

 例えば、正確な数値、最新の状態、特定条件に基づく抽出といった場面では、構造化されたデータを直接検索するほうが適しているケースも多くあります。つまり(1)意味で探す=ベクトル検索と(2)条件で取得する=構造化データとを使い分ける必要があります。

 実務では、文書やナレッジの探索には意味検索を、数値や状態の取得には構造化データに直接アクセスするという役割分担が基本になります。

システムの距離は「なくす」のではなく「安全につなぐ」

 ここまで見てきた通り、アプローチはいくつかありますが、どれが正しいかは一概には言えません。判断の軸になるのは次のような観点です。

●リアルタイム性がどこまで必要か
●正確性や監査性がどの程度求められるか
●データの機密性
●運用コスト

 例えば、日次レポートや分析用途であればデータを持ち出すアプローチが適していますし、業務オペレーションの中で使う場合は、データ連携を挟む構成が適しています。重要なのは、技術選定ではなく、業務要件と責任の設計です。

 実務では、データの取り方は人間が設計し、その範囲の中でAIシステムが柔軟に使い分けるという分担になります。「どのデータにアクセスできるか」「どの条件まで許可するか」といった制御は固定し、検索条件や対象の選択など“揺らぎ”のある部分をAIシステムに任せる形です。このように分ければ柔軟性と統制を両立できます。

 AI活用において、よくある誤解は「AIをどこにつなぐか」を問題だと捉えてしまうことです。実際にはそうではありません。重要なのは「どのデータに、どのようにアクセスさせ、どこまでの操作を許可するのか」の設計です。

 AIシステムと基幹システムの距離は、なくすものではなく、意図して設計するものです。その中心にあるのがデータ連携です。AI技術を実業務に活用するためには、モデルやツールの前に、まずこの構造を整理しなければなりません。「社内の“奥”にあるデータをどう使うか」という問いに向き合うことが、AI技術活用を進めるための出発点です。

高坂 亮多(こうさか・りょうた)

セゾンテクノロジー CTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)。2007年新卒入社、2025年より現職。流通業向け業務アプリケーションの開発を皮切りに、クラウド移行やモバイルアプリケーション、コグニティブ技術を活用したアプリケーションなど先端技術領域の開発をリードしてきた。近年はデータエンジニアとして分析基盤の構築やAI活用プロジェクトを推進している。