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- DX戦略を実現する顧客接点強化のための自社アプリの開発・運用の基礎
企画構想こそが自社アプリ開発を成功に導く第一歩【第2回】
RFIで開発ベンダーを選定する
ターゲットとゴールが定まり、提供したいサービスの輪郭が見えてきたら、構想を実現するための技術的パートナーになる開発ベンダーを探します。
まずは、インターネット検索や業界の評判、導入実績などを参考に、候補になる開発ベンダーを複数社リストアップします。その際、あらかじめ対象を絞り込んでおくと効率的です。提供したいサービス規模や、B to C(企業対個人)向けかB to B(企業間)向けか、デザインと堅牢なシステムのどちらを重視するかなどの観点で選びます。
リストアップした開発ベンダーに対し、最初の情報収集のアクションとして提出するのが「RFI(Request For Information:情報提供依頼書)」です。自社の構想を伝え、開発ベンダーが持つ技術や知見、類似の実績、概算費用、想定される開発期間などの情報提供を依頼します。RFIにより、本格的な発注プロセスに進む前に「このような技術で実現できる」ことや、予算のイメージなどの情報を収集します。この段階では、まだ具体的な提案を求めるわけではありません。
ただしRFIに対して、全ての開発ベンダーが積極的に対応してくれるとは限らない点には注意が必要です。RFIは正式な提案依頼ではないため、開発ベンダー側から見れば「受注につながるかどうか分からない案件」です。そのため、回答の粒度が粗かったり、一般的な資料の提供にとどまったりすることも少なくありません。
しかし、その情報だけでも価値はあります。複数の開発ベンダーから得た情報を比較検討することで、自社の構想を客観的に見つめ直し、予算やスケジュールをより現実的なものへ調整するための貴重な判断材料になるからです。
RFPで最高の提案を引き出す
RFIにより複数ベンダーから情報を収集し、プロジェクトの実現性や概算コストについての理解が深まったら、いよいよ具体的な提案を依頼する「RFP(Request For Proposal:提案依頼書)」を準備します。
RFPは、RFIで得た知見を基に、自社が実現したいアプリの要件や目的、予算、スケジュールなどを具体的に記述し、開発ベンダーからの提案を正式な依頼する文書です。開発ベンダーはRFPを基に、具体的な開発手法や体制、詳細な見積もり、プロジェクト計画などを盛り込んだ提案書を作成します。
RFPを提出した後は、ただ回答を待つのではなく、主体的に関わることが重要です。多くの場合、開発ベンダーはRFPの内容について理解を深めるために、質疑応答(Q&A)の機会を求めてきます。このQ&A対応こそ、開発ベンダーとのコミュニケーションを深め、発注側の熱意を伝える絶好の機会です。
それだけに、質問に対して迅速かつ的確に回答する体制を社内に整え、対話を通じて、こちらの意図を正確に伝える努力をしましょう。このような積極的な姿勢は、開発ベンダーに「このクライアントは本気だ」という印象を与え、より質の高い、踏み込んだ提案を引き出すことにつながります。良いパートナーシップは、この段階のコミュニケーションからすでに始まっているのです。
RFIやRFPには特に決まったルールはありません。ただ表3の項目を盛り込むことで、開発ベンダーとの認識齟齬(そご)を減らし、的確な回答を得やすくなります。
これらの項目も事細かに書きすぎると開発ベンダーの提案の幅を狭めてしまう可能性はあります。ですが、この段階で決まっていること、譲れないことを明確に伝えることは、良いパートナーシップの第一歩になります。
積極的な姿勢で開発ベンダーとの対話を主導する
今回は、自社アプリの開発を成功に導く第一歩として、企画構想から開発ベンダーの選定までのプロセスを解説しました。一連の流れで最も重要なのは、プロジェクト全体を通じて積極的な姿勢で臨むことです。熱意とビジョンを明確な言葉で伝え、開発ベンダーとの対話を主導することが、最高の提案を引き出し、信頼できるパートナーシップを築く鍵です。
RFIやRFPも、一度作成すれば終わりではありません。開発ベンダーからの回答や対話を受けて内容を見直し、時にはサービスの方向性を再検討することもあるでしょう。この試行錯誤のプロセスがプロジェクトの解像度を高め成功へと導きます。時間をかけて準備を進めることをお薦めします。
小地戸 孝介(コジト・コウスケ)
フェンリル 開発センター 開発2部 課長。2020年4月にフェンリルに入社し、プロジェクトリーダーに就任。自動車販売会社、塾、建設機械メーカー、保険会社など、多岐にわたるクライアントのWebアプリやネイティブアプリの開発プロジェクトを成功に導く。メガバンクのプロジェクトマネジャーとして組織マネジメントも担当している。関わったプロジェクトでは良好な顧客関係を築いている。