• Column
  • DX戦略を実現する顧客接点強化のための自社アプリの開発・運用の基礎

プロジェクトの鍵を握る“伴走者”としての開発パートナーを選ぶ【第3回】

小地戸 孝介(フェンリル 開発センター 開発2部 課長)
2025年10月29日

ポイント1:与件整理(RFI/RFP)への深い理解

 RFPに書かれた文言を、ただコピー&ペーストしたような提案内容ではなく、その背景にあるビジネスモデルやターゲットユーザー、市場環境までを咀嚼し、課題の本質をベンダー自らの言葉で再定義できているかが重要です。ここがズレているベンダーとは、残念ながらスタートラインに立てていません。

ポイント2:デザインへのアプローチ

 単に見た目が美しい流行りのデザインであるというだけでなく、企画構想したサービスコンセプトやブランドイメージと完全にマッチしているか、UX(User Experience:顧客体験)を重視した設計になっているかを確認する必要があります。「なぜ、このデザインの方向性なのか」「なぜ、このような情報設計なのか」といった思考プロセスや根拠が明確に示されている提案書は信頼性が高いと言えます。

ポイント3:システム設計の方向性

 技術的な優位性だけでなく、コストや開発スピードなどのビジネス上の要求とのバランスが取れた現実的な提案であるかを見極める必要があります。採用されている技術(プログラミング言語やフレームワーク、クラウドサービスなど)とシステム構成、そして「なぜ、それらを選択したのか」という根拠が明確に説明されているかを確認します。

 将来のサービス成長を見据えた拡張性や、運用開始後の保守・メンテナンスのしやすさが考慮されているかも重要です。これらは長期的なパートナーシップを築く上で不可欠なポイントになります。

ポイント4:プロジェクトの実行体制

 プロジェクトの成否は「誰が」推進するのかで大きく変わります。PMやディレクター、デザイナー、エンジニアなどのスキルセットや過去の実績が具体的に示されているかを確認する必要があります。特に、プロジェクト全体を牽引するPMの経験とリーダーシップは非常に重要です。体制図が曖昧だったり、キーマンの実績が不透明だったりする場合は注意しなければなりません。

ポイント5:プロジェクトの進行方法

 開発手法として、ウォーターフォールモデルとアジャイル開発モデルのどちらを採用するのか、その手法がなぜ今回のプロジェクトに最適だと判断したのかの理由が明確に述べられているかを確認します。プロジェクトの特性(要件の確定度や要求されるスピード感など)と開発手法が合致していなければ、プロジェクトは円滑に進みません。

ポイント6:現実的なスケジュール

 各工程のマイルストーンが明確に設定され、実現可能なスケジュールが引かれているかを確認する必要があります。発注側には理想のスケジュールがありますが、それはそれとして、客観的に実現可能かどうかを互いに精査します。潜在的なリスクを想定し、それに対するバッファが考慮されているかどうかも、ベンダーのリスク管理能力を示す指標になります。

ポイント7:透明性の高いコスト

 初期開発にかかるイニシャルコストと、リリース後の運用・保守にかかるランニングコストが明確に分けて提示されているかを確認します。それぞれの費用が、どのような作業やリソースに基づいて算出されたのか、その根拠が詳細に示されていることが重要です。「一式」といったあいまいな見積もりではなく、工数ベースの詳細な内訳が提示されている提案は透明性が高く信頼できます。

ポイント8:信頼を裏付ける会社情報

 ベンダー自身の会社情報も重要な判断材料です。類似プロジェクトの成功実績や顧客の評価、企業の安定性を示す財務状況など、信頼できるパートナーに足ることの裏付けを確認します。

 これら8つのポイントを挙げましたが、全てを100%満たしていないからといって即座に候補から外す必要はありません。提案書に不足している情報があれば、それこそがコミュニケーションのチャンスです。対話を通じて情報を補完し、ベンダーの思考をより深く理解していくことが重要です。

選ぶ側の主体性と誠実さが求める伴走者との出会いを生む

 複数ベンダーから魅力的な提案を受け取ると、どれを選ぶべきかを悩むはずです。RFPで指定した条件とは異なっていても、課題の本質を突く意欲的で創造的な提案に出会うこともあります。何が絶対的な正解か分からず判断に迷うかもしれません。

 このような状況で最も重要なのは、提案の1つひとつに発注側も真摯かつ誠実に向き合う姿勢です。なぜならベンダーも貴重な時間と労力を費やし、発注者の将来を真剣に考えた提案を用意しているはずだからです。その熱意と努力に敬意を払い深い、対話を心がる必要があります。

 例えば「この機能を実現する別の方法はありますか?」や「このデザイン案の意図を詳しく教えてください」といった具体的な質問は、ベンダーの思考の深さや柔軟性、対応力を引き出すきっかけになります。

 時には「もっとこうだったら、さらに良くなる」といったアイデアをぶつけてみるのも有効です。こうした深い対話を通じて互いの本気度を伝え合うことが、契約関係を超えた信頼の土台につながります。

 ベンダー選定は、単に機能や価格を比較する作業ではありません。自社の事業を共に創造するパートナーを選ぶ極めて重要なプロセスです。そのためには、提案書を細部まで精査すると同時に、その裏側にある論理と情熱を読み解き、積極的なコミュニケーションによりベンダーの姿勢やカルチャー、プロジェクトにかける熱意を感じとる必要があります。

 ベンダーからの提案を待つだけでなく、自らが主体的に関わり、真摯な対話を重ねるという地道で誠実な取り組みこそが、自社サービスを成功に導くための“最高の伴走者”を見つける唯一の道筋なのです。

小地戸 孝介(コジト・コウスケ)

フェンリル 開発センター 開発2部 課長。2020年4月にフェンリルに入社し、プロジェクトリーダーに就任。自動車販売会社、塾、建設機械メーカー、保険会社など、多岐にわたるクライアントのWebアプリやネイティブアプリの開発プロジェクトを成功に導く。メガバンクのプロジェクトマネジャーとして組織マネジメントも担当している。関わったプロジェクトでは良好な顧客関係を築いている。