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プロジェクトの鍵を握る“伴走者”としての開発パートナーを選ぶ【第3回】

小地戸 孝介(フェンリル 開発センター 開発2部 課長)
2025年10月29日

前回は、プロジェクトの成功を握る企画構想の重要性と、より良い開発パートナーを選定するためのRFI(情報提供依頼書)やRFP(提案依頼書)の作成方法を説明しました。これらのプロセスによりベンダーからは熱意のある魅力的な提案書が届きやすくなりますが、その提案書は、どのように見極めれば良いのでしょうか。今回は提案書の見るべきポイントと選定プロセスを解説します。

 RFI(情報提供依頼書)やRFP(提案依頼書)を作成し、ベンダーからの提案書を受け取ると、多くの担当者は、機能の面白さやデザイン性、見積もり金額といった表面的な点に注目しがちです。しかし本当に重要なのは、彼らが持つプロジェクトを円滑に進めるための提案力や潜在的な課題を見抜く力です。単なる発注先ではなく、事業の成功に向けて伴走してくれるパートナーをいかにして選ぶかが問われるのです。

ベンダー選定は提案書を受け取る前から始まっている

 実はベンダー選定は、提案書を受け取る前から始まっています。特に重要なのは、提案書が完成するまでにベンダーと交わすコミュニケーションです。

図1:提案書を受け取るまでにベンダーと交わすコミュニケーションが特に重要

 RFIやRFPを提出すると、ベンダーからは内容に関する質問が寄せられます。そこでのやり取りは、ベンダーの“伴走力”を測る最初の試金石です。質問の意図や鋭さ、回答に要する時間、丁寧さなどから、ベンダーが、どれほど真剣にこちらの企画構想を読み解こうとしているか、その熱意と理解度を推し量れます。

 表層的な質問しか出てこない、あるいは回答が的外れな場合は、プロジェクトへの関心度が低いか、本質を捉える能力が不足している可能性があります。

 可能であれば、提案書を受け取る前に打ち合わせの場を設けましょう。テキストベースのやり取りだけでは分かりにくい担当者の人柄やチームの雰囲気、議論の活性度などを直接感じ取れるからです。この対話を通じて、自社のビジョンや事業にかける思いを直接伝え、ベンダーの反応や深掘り具合を確認します。

 単に「ご希望通りに作ります」という受け身の姿勢ではなく「この課題を解決するには、このようなアプローチも考えられます」といった能動的な提案が生まれるかどうかも重要です。こうした双方向のコミュニケーションが互いの理解を深め、信頼関係の土台を築きます。

 この過程で、選定する側として忘れてはならない心構えがあります。「決して受け身にならない」ことと「ベンダーからも『選ばれている』という意識を常に持つ」ことです。

 優れたベンダーは、どの企業と仕事をするかを慎重に選んでいます。顧客企業の事業の将来性やプロジェクト担当者の熱意、パートナーとして真摯に向き合う姿勢をベンダーも見極めているのです。例えば、打ち合わせ時に、窓口になる担当者だけでなく、プロジェクトオーナーや現場の責任者、決済者なども同席していればベンダーにも発注者の本気度が伝わります。

 自社の魅力を最大限に伝え「このプロジェクトを成功させたい」という本気度を示すことで初めて、ベンダーも本気で向き合ってくれるのです。選ぶ側と選ばれる側という一方的な関係ではなく、互いに尊重し対等な立場でパートナーシップを築こうとする姿勢が、優れたベンダーを引き寄せる鍵になります。

ベンダー選定のための8つのチェックポイント

 事前のコミュニケーションで良好な関係を築けたとしても、最終的な判断の拠り所になるのは、やはり提案書です。コミュニケーションは良好でも、肝心の提案内容が不十分であったり、企画構想に対する具体的な解決策が示されていなかったりすれば、要件定義や設計といった後工程で深刻な手戻りや認識の齟齬(そご)が発生するリスクがあります。

 提案書を詳しく確認し、その背景にある相手の考えを読み解くのは、手間も時間もかかる作業です。ですが、ここで時間をかけることが、将来のトラブルを避け、自社のサービスを成功に導くための重要な一手になります。提案書を評価するうえで最低限抑えておきたい具体的なチェックポイントとしては、次の8つが挙げられます。

図2:提案書の評価において最低限実施すべき8つのチェックポイント

 以下、8つのポイントを説明します。