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  • 課題解決のためのデータ活用の始め方

なぜ今、データ活用が求められているのか【第1回】

若尾 和広(primeNumber データイノベーション推進室 室長)
2025年9月17日

データ活用の狙いは生産性の向上と競争力の強化

 データ活用そのものは決して最新の取り組みではありません。では、なぜ今、データ活用が注目されているのでしょうか。

 最大の理由を筆者は“生産性の向上”だと考えます。労働人口が減少の一途をたどるなか、少ない人材で、より高い売り上げ・収益を得るためには、IT(Information Technology:情報技術)を使ったシステム化と、データに基づく業務の効率化が必要不可欠だからです。

 人材の流動性が高まり業務の標準化が重要な要素になっていることも大きな理由です。業務の標準化にはITの利用を前提にしたワークフローの構築が不可欠であり、その設計やモニタリング、運用改善のためにもデータが必要になります。

 組織文化の変革という観点でもデータ活用は重要な役割を果たします。KKD(感・経験・度胸)に代表される属人的なビジネス判断ではなく、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)やKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)といった指標を元にビジネス判断を下せるようになれば、組織全体が現状を理解しやすくなり、業務プロセスや意思決定の再現性を高められます。

 企画やクリエイティブなど個性がより重要な領域では、異なる個性やスキルを持つ人材が集まり、それぞれが判断や決定を下していくのは必要なことです。しかし日常業務においては基本的に業務プロセスを標準化し、判断基準をロジック化していくほうが効果的です。このことは、一連の業務の中でクリエイティビティを求められるパートや間違いのない作業を求められるパートでも変わりません。

 そもそもビジネスの現状の「良い」「悪い」を判断するための指標(KPI)を作るためにもデータは必要です。KPIを関係者全員が意識するようになれば「お客さまからの評判が高いから」といった定性的な状況把握ではなく「CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)の評価値が良くなった」「コンバージョンが良い」「商談数が足りている」など定量的な判断が可能になります。

 ただ「データ活用は難しそう」「自分には無理」と思われる読者もおられるかもしれません。しかしビジネスで成果を上げるためには「現状はどうなっているか?」「ビジネス成果を達成するためのボトルネックはどこか?」といった判断材料を探し続けなければなりません。

1つのデータは、さまざまな用途に利用できる

 読者の多くが集計には「Excel」などの表計算ソフトウェアを利用していると思います。その行為も基本的には、上記と同じ動機による、同じ目的の行為のはずです。データ活用は、Excelでの集計同様に、データを集め、集計・分析し、何をすれば改善できるのかを考えるというプロセスを実行するに他なりません。高度な数学や機械学習をイメージするよりも、まずはExcelでやっていることの延長として考えれば、データ活用も身近に感じられるでしょう。

 ただExcelと異なるのは、Excelでは扱えないような巨大なデータを分析できたり、業務系システムが蓄積しているデータを対象にしたりと集計するデータの対象範囲が広がることです。

 さらにステップアップするためには、データ活用を部門単位ではなく、全社的な取り組みとして捉える必要があります。企業が保有するデータは基本的に「ワンソース・マルチユース」、すなわち「1つのデータをさまざまな用途に活用できる」ものです(図3)。

図3:ワンソース・マルチユースによるデータ活用

 きちんと整理されたデータは、マーケティング用途だけでなく、生産や業務の最適化、ピープルマネジメント(組織の最適化)などにも使えます。データは用途ごとに存在するのではなく、1つのデータを、その目的に応じて複数の用途に活用できるのです。

 しかし多くの企業では、部門ごとに個別最適でデータ活用を進めているため、複数の部署が同じデータを重複して蓄積していたり、蓄積したデータを他部門では使えない状態になっていたりします。いわゆる“データのサイロ化”です。

 このような状況を避けるためには、企業全体でデータ活用戦略を立てていく人材、つまりCDO(Chief Data Officer:最高データ責任者)といったポジションの人材の存在が今後、ますます重要になってくるでしょう。

 ちなみにCDOは、企業が保有するデータを“資産”として最大限に活かす最高責任者であり、データの収集・品質管理・ガバナンスから、分析基盤の整備、活用施策の推進、データを起点にした新規ビジネスの創出までを統括し、組織全体をデータドリブンに変革する役割を担います。

ビジネスの判断基準としての価値を提供する

 このようにデータ活用は、現代のビジネスにおいて避けて通れない重要な要素です。可視化や分析だけでなく、分析結果に基づく行動までを含めた一連の取り組みとして捉えることが重要です。

 もちろん、どれだけ工夫しても集められるデータには限りがあり、いかに高度な統計解析や数学的手法を使っても完璧な顧客理解や精度100%の予測などは絶対にできません。それでもデータ活用は、ビジネスに対して十分なROI(Return Of Investment:投資対効果)を提供し、ビジネスの判断基準としての価値を提供できるはずです。

 次回は、データ活用がもたらす価値を、より詳しくお伝えするために、データ活用によりビジネス成果をもたらしている事例を紹介します。

若尾 和広(わかお・かずひろ)

primeNumber データイノベーション推進室 室長、プロフェッショナルサービス本部 プリンシパルソリューションアーキテクト。大日本印刷のビッグデータ分析部門立ち上げに参画した後、電通系マーケティング会社(現電通デジタル)にてCRMコンサルタント、BIシステム開発に従事。事業会社を経て、ブレインパッドにてプリンシパルコンサルタントとしてデータ分析やデータ活用基盤の構築、MA導入、分析/DX組織の立ち上げ支援などに従事。現在はprimeNumberのプリンシパルソリューションアーキテクトとしてクライアントのデータ活用を支援するとともに、データイノベーション推進室 室長として生成AI技術を中心としたR&D領域を担当している。