• Column
  • 課題解決のためのデータ活用の始め方

事例が示すデータ活用の実際と得られる価値【第2回】

若尾 和広(primeNumber データイノベーション推進室 室長)
2025年10月22日

ダイナミックプライシングの事例:価格決定ロジックにデータを活用する

 昨今のインフレ下では、価格に関する話題がニュースで取り上げられることが増えています。企業にとって、収益を確保しつつ顧客に受け入れられる価格を設定することは、極めて重要でありながら難易度の高いテーマです。価格設定が高過ぎれば販売機会を失い、安過ぎれば収益を圧迫してしまうからです。

 加えて市場環境や競合状況は常に変化するため、静的な価格設定では最適化が困難です。このような複雑で難易度の高いテーマにおいても、データ活用により最適な価格を推定し、動的(ダイナミック)に価格を設定すれば、収益の最大化を図れます(図2)。

図2:ダイナミックプライシングの導入業界と実現効果

 そこでは、次のような効果が期待できます

●収益の改善・最大化:適切な価格設定により利益率が向上
●価格設定属人化の解消:データに基づく客観的な価格決定
●需要の平準化:価格調整による需要コントロール
●業務効率化:価格設定にかかる時間と労力の削減

 現在では、表1に挙げるような企業が、ダイナミックプライシングを導入しています。一般的な商品やサービスだけでなく、中古車販売やリサイクルビジネスのような“一点もの”の価格設定においても、過去の取引データを基にした価格の最適化が図られています。

表1:ダイナミックプライシングの導入例(primeNumber調べ)
業界企業名取り組み内容
エンターテインメントユニバーサル・スタジオ・ジャパン2019年からシーズンや曜日に応じた変動価格制を導入し、入場者数の平準化と価値に見合う価格設定を実現
東京ディズニーランド/東京ディズニーシー混雑緩和を目的とした変動価格制を2021年から導入
宿泊Airbnbなどの民泊サービス需要予測に基づく最適価格提案システムを導入
流通ビックカメラ電子値札を使用し、オンライン価格との競争に対応したリアルタイム価格調整を実施
航空ANA(全日本空輸)需給バランスに応じた運賃変動システムを導入
中古品/リサイクルオークネット4輪中古車の査定において、予測価格の73.1%が実際の販売価格の±10%以内に収まる査定精度を達成。査定時間の30%削減と価格クレームの大幅減少を実現

必ずしも高度な技術を使っているわけではない

 紹介した事例には、データ活用がもたらす価値には共通点があることが分かります。いずれも、従来は経験や勘に頼っていた意思決定を、データに基づく客観的な判断に変えることで成果を上げている点です。第1回で説明した「KKD(経験・勘・度胸)からの脱却」が実際に奏功した例だといえるでしょう。

 いずれのテーマでも、業務をシステム化・標準化することで、組織全体のパフォーマンス向上を実現している点も変わりません。人材の流動性が高まる現在にあっても、安定した事業運営が可能になります。

 さらに重要なのは、どちらのテーマもはじめから高度な技術を使っているわけではないということです。マーケティングの事例では、既存の顧客データと購買履歴の分析から始まっています。価格最適化の事例では、過去の取引データと市場価格情報を組み合わせた分析がベースになっています。

 つまり、どちらも「現在持っているデータをより効果的に活用する」ことから始まっています。これは、第1回で触れた「Excelの延長として考える」というアプローチそのものです。

 多くの企業では既にデータ活用の“種”は存在しているはずです。顧客データや売上データ、価格データ、Webアクセスデータなどが、日々の業務で蓄積されているでしょう。これらのデータを、これまでとは違った視点で分析・活用することで、大きな改善効果を得られます。まずは小さな一歩から始めてみるのが良いのではないでしょうか。

 次回は、データ活用を進めるステップと、それを実現するためのサービスについて解説します。データ活用は決して一部の専門家だけのものではありません。全てのビジネスパーソンが身につけるべきスキルとして、1つずつ理解を深めていきましょう。

若尾 和広(わかお・かずひろ)

primeNumber データイノベーション推進室 室長、プロフェッショナルサービス本部 プリンシパルソリューションアーキテクト。大日本印刷のビッグデータ分析部門立ち上げに参画した後、電通系マーケティング会社(現電通デジタル)にてCRMコンサルタント、BIシステム開発に従事。事業会社を経て、ブレインパッドにてプリンシパルコンサルタントとしてデータ分析やデータ活用基盤の構築、MA導入、分析/DX組織の立ち上げ支援などに従事。現在はprimeNumberのプリンシパルソリューションアーキテクトとしてクライアントのデータ活用を支援するとともに、データイノベーション推進室 室長として生成AI技術を中心としたR&D領域を担当している。