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- 課題解決のためのデータ活用の始め方
データ活用の第一歩は企業の“健康診断”から【第5回】
表面的な調査や偏った調査は手戻りの元に
現状調査でよくつまずくポイントは、主に以下の3つです(図2)。
(1)ヒアリングに積極的に協力してもらえない
そもそもヒアリングに積極的に協力してもらえないケースがあります。なぜなら現行業務でも負荷がかかっている中でヒアリングの負荷が、さらに増えることや、ヒアリングの結果、従来の業務が変わってしまうことを避けたい社員も多いからです。
例えば、ある地方銀行では、大手コンサルティング会社に多額の費用を支払い、現状を整理したうえでデータ可視化の仕組みを構築しました。しかし結果的に、そのシステムは現場で使われることはありませんでした。なぜ、このような事態が起きたのでしょうか?
その理由は、形式的な社内整理やディスカッションはなされたものの、現場の社員が主体的に取り組めていなかったためです。この調査では、上からのプレッシャーで“とりあえずの回答”を返す人が多く、本質的な課題が明らかにならないまま整理が進んでしまっていました。
調査や整理を実施しても、表面的な理解に留まり、隠れていた課題が開発に着手して初めて明らかになる場合も多くあります。それだけに、ヒアリングを取りまとめる人には要職にある人材を選び、現場の社員にも目的を伝えて理解を得ながら、社内の状況を適切に把握していくことが重要です。
(2)ヒアリングに偏りが生まれてしまう
多人数が一堂に会するヒアリングでは、参加者によって話す量に違いがあり、良く話してくれて情報量も多い、いわゆる“声の大きい人”の意見だけが取り入れられてしまうことがあります。コンサルティング会社などに調査の支援を依頼している場合は、誰の意見が正しいのかの判断が難しいケースもあります。
対策としては、多人数へのヒアリングだけでなく、分科会や1対1での場を設けることが有効です。取りまとめ役に「あの部門の意見はどうですか」と水を向けると、うまく促してくれることもあります。
(3)ExcelやAccessの加工プロセスがブラックボックスに
ExcelやAccessは多くのユーザーが、データの加工・活用に使用しています。ただ、現場の担当者個々人がデータをダウンロードしてアドホックに加工する、マクロを組むといった使い方が多く、そのプロセスがブラックボックスになっていることが少なくありません。利用者数もデータ量も膨大になりがちで、網羅的な現状調査が難しくなりがちです。
対策としては、少なくとも「成果物を大量の人に配布しているもの」や「経営層に報告しているもの」は必ず押さえておくことです。例えば部署にマクロが得意な人が1人いて、その人が作ったものを部内で回覧しているケースなどは確実に把握しておきたいところです。
個人や小人数の取り組みは後から修正できますが、多く人が使っているものや経営判断に使われているものは、事前に把握していないと大きな手戻りが発生します。
経営層と現場の理解を得るためにすべきこと
調査は、それ自体が現場の負荷になるため、経営層の理解はもちろん、部門長にもしっかり理解してもらわなければ協力を得られません。
そのために、社内のイベントなどで説明の機会を設け「調査により皆さんの業務負担が減る」「生産性が高まり業務が上向くための活動である」ということを伝える必要があります。全員の困りごとが必ず解決できるわけではありませんが、データ活用は生産性を上げ、売り上げ・利益を高めるための活動だということを理解してもらうことが重要です。
例えば「BI(Business Intelligence)ツールを入れます」「分析システムを入れます」といった説明では「きれいなグラフを作るためだけに、こんなことをする必要があるのか」と言われてしまうことがあります。実際には、グラフでパッと可視化することで、数字を読む時間が減り、理解するための労力が減り、その分、本来業務や経営判断に集中できる時間が増えるのですが、そこまでの理解を得られることが少ないのが現状です。
受け取られ方は言い方一つで大きく変わります。ツール導入のためという調査目的のみを説明するのではなく「なぜ重要なのか」「どういった効果があるのか」を説明することが大切です。
経営層と現場の理解が成功の鍵に
現状調査は、データ活用プロジェクトを成功させるための第一歩です。適切な現状把握なしにプロジェクトを進めると、後から大きな手戻りが発生したり、現場で使われないシステムができあがったりするリスクがあります。
定量的な情報収集と定性的なヒアリングをバランスよく実施しながら、特に外部パートナーとの協業状況や、Excel/Accessによるような隠れた処理も明らかにしていきましょう。そして何より、経営層と現場の理解を得ながらヒアリングを進めることがプロジェクト成功の鍵になります。
若尾 和広(わかお・かずひろ)
primeNumber データイノベーション推進室 室長、プロフェッショナルサービス本部 プリンシパルソリューションアーキテクト。大日本印刷のビッグデータ分析部門立ち上げに参画した後、電通系マーケティング会社(現電通デジタル)にてCRMコンサルタント、BIシステム開発に従事。事業会社を経て、ブレインパッドにてプリンシパルコンサルタントとしてデータ分析やデータ活用基盤の構築、MA導入、分析/DX組織の立ち上げ支援などに従事。現在はprimeNumberのプリンシパルソリューションアーキテクトとしてクライアントのデータ活用を支援するとともに、データイノベーション推進室 室長として生成AI技術を中心としたR&D領域を担当している。

