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JAXA、設計・認証・生産をデジタル化する「航空機DXプロジェクト」で航空機開発の常識を変える

「インダストリアルデジタルツインサミット2025」より、航空技術部門航空プログラムディレクターの神田 淳 氏

トップスタジオ
2025年10月23日

「航空機DXプロジェクト」とコンソーシアム「CHAIN-X」で反撃

 世界的なDXの流れに対し日本が対抗策として本格的な取り組みを始めたのが「航空機DXプロジェクト」だ。JAXAを代表に、IHI、川崎重工業、SUBARU、日本航空機開発協会、三菱重工業の6機関が参加する。

 航空機DXプロジェクトでは、国の「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」から予算を得て、2023年から5年間の計画で、デジタル技術の開発と実証に取り組んでいる。以下の3つの技術領域でDXを進めるとともに、これらを統合するプラットフォームを開発する(図3)。

図3:「航空機DXプロジェクト」では航空機開発全体を視野に3つの技術領域のDXに取り組む

設計DX:システムからコンポーネントまでの効率的な擦り合わせ設計を実現し、開発の大幅な効率化を目指す

認証DX:国際的な信頼性保証フレームワークに従って認証試験を解析に置き換えるCbAプロセスの構築を目指す

生産DX:デジタルAPQP(Advanced Product Quality Planning)やMBD(Model-Based Development)-MBI(Model-Based Instruction)連携、スマートサプライチェーンなどを通じて製造プロセス全体の最適化を目指す

 これらの技術を統合するためのプラットフォームが「SACRA(Standards-based Active Collaboration Realization for Aviation)」だ。航空機の設計から製造、サプライチェーン管理までの開発プロセス全体のデータを一元管理するクラウド環境になる。神田氏は「従来のOEMを頂点にした“ツリー型”の情報伝達方式ではなく、各企業が共通プラットフォーム上のデータに直接アクセスできる“ハブ&スポーク型”を採用し、リアルタイムな情報共有と協働設計を目指す」と説明する(図4)。

図4:「SACRA(Standards-based Active Collaboration Realization for Aviation)」ではハブ&スポーク型のプラットフォームを実現する

 これら技術開発と並行し、産学官連携の場となる「航空機ライフサイクルDXコンソーシアム(CHAIN-X)」を2022年に設立している。「従来の重工業メーカーに加え、IT・ソフトウェア企業の参画が進んだ結果、発足時の34法人・団体が現在は70法人・団体にまで参加者が倍増し、業界全体でDX化への機運が高まっている」(神田氏)という。

OEMとのデータの一元化で設計へのフィードバック・参画を期待

 航空機DXプロジェクトは、近い将来の日本の航空機産業の競争力の強化を目指し、着実に進んでいる。神田氏は「モデルベースで設計され、解析で認証を取得し、スマートファクトリーで製造される航空機を実現できるDX関連技術を早期に獲得することで、国際共同開発における日本の不可欠性を維持・向上させる」と意気込む。

 そこでは「現在の下請け的な『構造Tier1』の立場から脱却し、設計などの上流工程に食い込むことで、より付加価値の高いビジネスモデルへの転換を目指す。DXによりOEMとのデータ一元管理が実現すれば設計へのフィードバックができ、設計工程に関われる可能性が出てくる」(神田氏)と期待する。

 航空機DXプロジェクトは、航空機開発の単なる効率化ではなく、日本が世界の航空機開発において再び存在感を示すための戦略的な取り組みだ。プロジェクトの成果とCHAIN-Xの拡大が、日本の航空機産業に新たな希望の光を与えようとしている。