• Column
  • 転換期を迎えた医療DX、現場実装への突破口

マイナンバーカードと医療DXで高齢化が進む日本の課題を解消する

「第4回 メディカルDX・ヘルステックフォーラム2025」より、デジタル庁 国民向けサービスグループ 統括官 三浦 明 氏

江嶋 徹
2025年11月17日

デジタル庁では、厚生労働省などと共にマイナンバーカードを基盤とした医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。同庁 国民向けサービスグループ統括官の三浦 明 氏が「第4回 メディカルDX・ヘルステックフォーラム2025(主催:同実行委員会、2025年8月30日)」に登壇し、マイナンバーカードを使った市民向けサービスの最新状況と2040年を見据えた医療DXの全体像を解説した。

 「マイナンバーカードで特に重要なのはICチップに格納された電子証明書だ。これによりネット上で操作している者が何者であるかをネット上で確実に証明できる」--。デジタル庁 国民向けサービスグループ統括官の三浦 明 氏は、こう強調する(写真1)。

写真1:デジタル庁 国民向けサービスグループ統括官の三浦 明 氏

マイナンバーカードは世界に類を見ないeKYC基盤

 マイナンバーカードはプラスチック製のICチップ付きカードである。券面に住所と氏名、生年月日、性別、マイナンバーおよび所有者の顔写真が表示されている。2025年8月時点では日本国民の約8割が所有する。

 三浦氏が強調した電子証明書によりオンラインで本人確認を完結できるeKYC(electronic Know Your Customer)の基盤が実現されている。「これほど大規模な公的eKYC基盤を持つ国は少なく、人口1億を超える国では存在しない。日本は“デジタル後進国”だと指摘されることもあるが、世界に類を見ないeKYC基盤を有効活用していくことが重要になる」(三浦氏)

 マイナンバーカードを使ったサービスの1つに「マイナ救急」がある。保険証を紐付けたマイナンバーカードを持っていれば、たとえ本人の意識がなくても救急車内で氏名や生年月日、かかりつけ医、既往歴、服薬情報などが閲覧でき、救急隊員は適切な医療機関への搬送が可能になる。受け入れる側も事前の準備ができる。

 マイナ救急について三浦氏は「救急隊員が券面をしっかり確認して必要な情報を閲覧する仕組みだ。医療情報は機微情報であり、意識がないうちに不要な第三者に閲覧されることはない」と説明する。マイナ救急は2024年から実証実験に取り組んでおり「2025年秋から全国展開される予定」(同)だ。

 ただ「マイナ保険証の利用率は2025年7月時点では3割強にとどまっている。紙の保険証は2025年12月1日で終了するうえ、マイナ救急などマイナ保険証がなければ利用できないサービスもある。出来れば速やかにマイナ保険証を取得し、常に持ち歩いていただきたい」と三浦氏は投げ掛ける。

 とはいえ、マイナンバーカードを使った市民向けサービスの利用シーンは着実に広がっている(図1)。デジタル庁では「ダッシュボードを作成し各都道府県の進捗状況を可視化している」(三浦氏)という。

図1:マイナンバーカードを使った市民サービスは着実に広がっている

 例えば、引っ越しや子育て、介護などに関連する手続きは「スマートフォンだけで完結できる環境が、ほぼ実現しつつある」(三浦氏)。市役所が提供するサービスや国家公務員の入館管理、図書館の図書カード、防災避難所での本人確認などにも広がりつつある。

 並行して民間サービスでの利用も進展している。例えば、メルペイは銀行口座登録時の本人確認に、メルカリは機種変更時のアカウント復旧に、それぞれマイナンバーカードを使用している。

 「金融機関の口座開設においては、マイナンバーカードによる本人確認の割合が3~4割にまで広がっている。なりすましの防止や処理時間の短縮、本人確認トラブル時の対応コスト削減などの効果が生まれている」と三浦氏は説明する。