- Column
- 匠の技とAI技術が融合する“人間中心”の製造DX
世界標準の産業用データスペースによる協創に、欧州機械産業の再興を懸ける
「Industrial Transformation Day 2026」より、独VDMA Forum Manufacturing-X ルーカス・ゾールバッハ 博士
自律分散型のデータスペースによりデータ主権を捨てずにスケールする
中央集権型の課題を打破するアプローチとしてゾールバッハ博士が提示するのが「データスペース(Data Space)」と「連合型デジタルエコシステム(Federated Digital Ecosystem)」だ。
データスペースは、業界や企業をまたいだ情報交換を、自動的かつ各者がデータ主権を保持したまま実行できる「信頼の枠組み」と定義される。中央集権型とは対照的に「分散型・連合型のアーキテクチャーを採用している」(ゾールバッハ博士)
データスペース内で共有されるのは、あくまで「記述的なメタデータ」に限定される。そのデータ資産が「どのような条件で、誰が利用可能かという、いわばカタログ情報のみが公開される」(ゾールバッハ博士)仕組みだ。連合型デジタルエコシステムでは複数のデータスペースを連携し、実際のデータ交換はその条件に合意した当事者間のみで実行する。そのため「データ主権を維持したまま、データ共有を自動化・スケール化できる」(同)という。
では、なぜ「単一の巨大なデータスペース」ではなく「複数のデータスペースから成るエコシステム」を目指さなければならないのか。その理由をゾールバッハ博士は「エコシステム構造を採ることで、各業界は固有のニーズや優先事項を自律的に設定できる。他業界との相互運用性を確保しておけば、ガバナンスを保ちながらネットワークを広げられるからだ」と説明した。
「契約」と「転送」を分離した二層構造でセキュアに通信する
欧州では現在、データスペースを産業界に実装するための取り組みが官民一体で進んでいる。その先鋒を担うのが製造業に特化したイニシアティブ「Manufacturing-X」だ。Manufacturing-Xの技術的な成果の1つが「MX-Port」である(図3)。これは「データ提供者/利用者の双方がデータスペースに接続するためのアクセスポイントとして機能する共通技術基盤」(ゾールバッハ博士)を指す。
MX-Portは制御・管理を担う「コントロールプレーン(Control Plane)」と、実際のデータ転送を担う「データプレーン(Data Plane)」の二層構造を持つ。コントロールプレーンでは、データ資産に付随するメタデータや利用ポリシーが提示され、提供者/利用者の間で合意・契約が形成される。この契約が締結されて初めてデータプレーンが起動し、P2P(Peer to Peer)での直接通信でセキュアにデータ転送される仕組みだ。
このMX-Portを実装した先に、Manufacturing-Xでは以下のようなユースケースが開発・検討されている。
サプライチェーン管理
サプライヤー情報をリアルタイムで交換することで、供給のボトルネックの早期発見、生産計画の改善、応答時間の短縮を実現する。
サービス志向ビジネスモデル
製品の稼働データを安全に交換することで、機械の劣化状態とリアルタイムで把握するCBM(Condition Based Maintenance状態基準保全)や、故障の兆候を捉える予知保全(Predictive Maintenance)などのシナリオを実現する。
コラボレーティブエンジニアリング
OEM、サプライヤー、顧客のすべての関係者が関与してエンジニアリングデータを交換し、製品を共同で作り上げる。IDE(Integrated Development Environment:統合開発環境)やシミュレーションツールを直接データスペースに接続し、必要なコンポーネントやパートナー企業を直接検索し、開発環境に組み込めるようにする。
