- Column
- 匠の技とAI技術が融合する“人間中心”の製造DX
世界標準の産業用データスペースによる協創に、欧州機械産業の再興を懸ける
「Industrial Transformation Day 2026」より、独VDMA Forum Manufacturing-X ルーカス・ゾールバッハ 博士
AIロボティクスを実現する「RoX」プロジェクトが始動
MX-Portを実際の産業プロジェクトに適用した事例として、ゾールバッハ博士は「RoX」を紹介した。
RoXは、AI(人工知能)技術をベースとした「ロボティクス向けデジタルエコシステム」の構築を目指すプロジェクトだ。重電大手のスイスABBが主導し、24社のパートナーが参画して2024年9月に開始した。フラウンホーファー研究所、DLR(ドイツ航空宇宙センター)、独シーメンスが管理・運営をサポートし「2027年2月末までの予定で約5000万ユーロの公的資金援助を受けている」(ゾールバッハ博士)という。
RoXの目的は「技術的または経済的な理由から、これまで自動化が困難とされてきた複雑なプロセスを実現することにある」とゾールバッハ博士は説明する。具体的なアプローチは、データスペースを通じて「ロボット産業のあらゆるプレーヤーを有機的に結合し、エコシステムを形成する」(同)ことだ。
そこには、自動車産業などのエンドユーザー、ロボットの「手」に当たるグリッパーや「目」に当たるビジョンシステム、「腕」に当たるマニピュレーターなどのコンポーネントメーカーなどが連なる。さらに「現場への最適化を担うシステムインテグレーターや、開発環境プロバイダーなどまでを網羅する」(ゾールバッハ博士)
RoX内の具体的なユースケースとしてゾールバッハ博士は、多種多様な部品を扱う工場のピッキング現場を例に、ロボットビジョンのモデル更新シナリオを挙げる。新しい部品が追加されたり、既存の物体検出・ピッキング動作の設定調整が必要になったりする場面を想定する。
このシナリオでは、MX-Portを介して次のようなフローでデータが連携される。
まず、発注側のエンドカスタマーが部品の記述データ(アセット)を作成し、アクセス権や利用ポリシーを設定してデータスペースに公開する。続いて、ロボットビジョン企業が記述データを発見し、契約交渉・締結を経て、P2P接続でデータを取得する。
その後、ロボットビジョンの専門家がAI技術が物体を識別するための検出ネットワークを更新し、完成した更新モデルを再びデータスペースに公開する。最後に、再び契約締結を経て、更新モデルがエンドカスタマーの拠点へP2P転送される。
さらにゾールバッハ博士は、システムインテグレーターが参加するケースにも言及した。生産現場への統合サポートが必要な場合などで「第三者、第四者が全く同じインターフェースを通じて参加し、必要なパートナーと契約を締結できる」(ゾールバッハ博士)と強調する。「関与する全てのパートナー間で、クリーンかつ効果的な方法でデータを循環させられる」(同)
世界の主要工業国でデータスペースの国際標準化が進む
Manufacturing-Xの国際展開に向けては、ドイツや欧州域外のパートナーもエコシステムに参画できるよう「IMXC(International Manufacturing-X Council)」という国際的なグループが推進活動を担っている。
IMXCは、オープンな協調、包摂性、透明性、平等な待遇を重要原則として掲げている。既に、フランスの「Alliance Industrie du Futur(アリアンス・アンデュストリー・デュ・フュテュール)」、米国の「CESMII(セスミー)」、イタリアの「Confindustria(コンフィンドゥストリア)」、そして日本の「ロボット革命・イニシアティブ協議会(RRI)」なども参画しており「真に国際的な取り組みとして発展しつつある」(ゾールバッハ博士)
講演の最後にゾールバッハ博士は「データスペースに基づく連合型エコシステムは、欧州発のローカルな枠組みを超え、グローバルな産業データ共有の標準インフラとなる可能性を秘めている」と締めくくり、協調を呼び掛けた。