• Column
  • 匠の技とAI技術が融合する“人間中心”の製造DX

製造業のデジタル開発で取り戻す「アジャイル」が、大規模組織のイノベーションを加速する

「Industrial Transformation Day 2026」より、Scaled Agile-Japan ストラテジックアドバイザーの中谷 浩晃 氏

森 英信(アンジー)
2026年5月18日

顧客価値を届け続けるデジタル志向の開発ペース

 SAFeのフレームワークを適用した事例として中谷氏が取り上げるのが、独ポルシェ(Porsche)の変革だ。変革を急いだのは「近年、ポルシェの顧客層は若返り、技術志向が強まったからだ」(同)という。かつてはデザインやエンジン音に魅力を感じていた顧客が「今では、スマートフォンのように購入後も機能が追加されて進化し続ける『デジタルプロダクト』としての体験を求めるようになった」(同)

 ポルシェの経営陣はこう語ったという。

 「スマホを買って1週間後に新しい機能が届くのが当たり前の世界で、クルマのアップデートに数年も待たせることはもはや許されない。だからこそ、伝統的な車両開発とデジタルという異なる速度を組織で両立させる『マルチスピード・ワールド』への移行が必要だったのだ」

 具体的な仕組みがSAFeをベースとした「ポルシェ・タクト(Porsche Takt)」だ(図3)。そこでは「心拍の波形になぞらえた2週間という共通のリズムで、実際に動作する製品を全関係者で確認し、エンジニア全員が顧客への価値提供を実感できる体制へと変えた」(中谷氏)という。

図3:独ポルシェがSAFeを実践した「ポルシェ・タクト(Porsche Takt)」のイメージ

 そのリズムは完成車の出荷で終わらない。顧客の手元に届いた後も、ソフトウェアを更新し続けるSDVの開発ペースとして維持する。購入後も「新しい機能や改善を図り、継続的に顧客価値を届け続ける組織へと進化した」(中谷氏)のである。

グローバルトップ企業はSAFeで走り始めている

 ポルシェの変革は特殊な事例ではなく、世界をリードする製造業のグローバル標準になりつつある。既に、蘭ASML、蘭フィリップス、米ボーイング、米ロッキード・マーティン、独ボッシュ、独フォルクスワーゲンなどが「ハードウェア開発を含む組織OSとしてSAFeを採用している」(中谷氏)という。

 日本の製造業が実際にSAFeを活用するためにScaled Agile-Japanは、SAFeをハードウェア開発に適用する「SAFe for Hardware」のトレーニングコースの日本語版を、2026年2月に提供開始した。エンジニアからマネジャー層までを対象とした2日間のプログラムで「開発サイクルの加速によるフィードバックの迅速化、ステークホルダーとエンジニア間のコラボレーション向上、サプライヤーとのアジャイルな統合など、実務に直結する内容を学ぶ」(中谷氏)という。

 講演の最後に中谷氏は「現状維持を選択すれば最新技術の価値を発揮できず、組織自らイノベーションのボトルネックとなる道を進むことになる。グローバル市場は既に新しい組織OSで走っており、日本企業が持つ変革のDNAを組織OSのアップデートで目覚めさせてほしい」と力を込める。

お問い合わせ先

Scaled Agile-Japan合同会社

Webサイト:https://scaledagile.com/jp/