- Column
- 匠の技とAI技術が融合する“人間中心”の製造DX
製造業のデジタル開発で取り戻す「アジャイル」が、大規模組織のイノベーションを加速する
「Industrial Transformation Day 2026」より、Scaled Agile-Japan ストラテジックアドバイザーの中谷 浩晃 氏
- 提供:
- Scaled Agile-Japan合同会社
製品開発におけるAI(人工知能)技術やソフトウェアの比重が高まる中で、なぜ期待したほどのビジネス成果が得られないのか。その要因はソフトウェアとハードウェアの開発の間に生じる「速度の乖離」にあるという。Scaled Agile-Japan ストラテジックアドバイザー、SAFeフェロー、SPCTの中谷 浩晃 氏が「Industrial Transformation Day 2026」(主催:インプレス、2026年3月13日)に登壇し、日本由来のリーン/アジャイル(俊敏)の思想を軸にしたフレームワーク「SAFe(Scaled Agile Framework)」の全体像と、グローバルトップ企業における組織変革の事例を解説した。
「AI(人工知能)技術の導入が加速する製造業で『技術はある、しかし成果が出ない』という声が聞かれる。その一因として、ソフトウェアの進化に対し、組織とハードウェアが追いついていない現状がある」--。Scaled Agile-Japan ストラテジックアドバイザー、SAFeフェロー、SPCTの中谷 浩晃 氏はこう分析する(写真1)。
ソフトとハードの開発の速度差がイノベーションのボトルネックになる
現在、あらゆる製品の価値がソフトウェアとAI(人工知能)技術によって再定義されようとしている。自動車はSDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義型車両)へと進化し、工場はAI技術がロボットアームを最適に制御するスマートファクトリーへ、医療機器はアプリケーションと連動するウェアラブルデバイスへと変貌した。製品の競争力の源泉は「ハードウェアの形ではなく、その内側を支配するソフトウェアへと移行した」(中谷氏)
しかしこの移行の過程で、深刻な問題が浮上している。中谷氏によれば「ソフトウェア・AI技術の開発スピードが指数関数的に加速する一方、物理的な制約を持つハードウェアの開発スピードがそれに追いつかない」という。この速度差が“見えない壁”であるイノベーションギャップだ(図1)。
システム全体の速度は、常に“最も遅い部分”によって制限される。なぜならAI技術という高速なエンジンを回しても「ハードウェア開発のサイクルがボトルネックのままでは製品を市場に出せない」(同)からだ。これは単なる開発現場の効率化の問題ではなく「AI技術への投資を売上(キャッシュ)、つまりビジネス成果へと変換できないという、企業経営にとっての致命的なボトルネックになりかねない」と中谷氏は指摘する。
アジャイルの思想は日本のハードウェア開発に刻まれている
イノベーションギャップを埋めるために中谷氏が必要と訴えるのが「組織全体のOS(基本ソフトウェア)の刷新」である。その核となるのが「フロー(よどみない価値の流れ)」「高速なフィードバック」「システム思考」の3つの要素だ。
これらを具体的に実行するためのフレームワークを「SAFe(Scaled Agile Framework:スケールド・アジャイル・フレームワーク)」と呼ぶ(図2)。中谷氏は「経営層から現場までを『顧客への価値提供』という一点で、戦略と実行のアライメント(一致)をとる仕組み」と定義する。
中谷氏は、SAFeの基盤となる(1)リーン、(2)アジャイルという2つの思想の起源を掘り下げ「その起源が日本にある」点を強調する。
リーンは、源流となる「トヨタ生産方式--脱規模の経営をめざして」(1978年、大野 耐一 著)は「徹底した無駄の排除」を基本思想とする。その著書には「アジャイルに通じる記述がある」と中谷氏は指摘し、大野氏の言葉を次のように紹介する。
「計画というものは非常に変わりやすい。世の中はなかなか計画通りにいかぬもので、情勢によって計画の中身はどんどん変えていかざるを得ない。いっぺん計画を立てたらこれを変えないという考え方では、企業の存続すらおぼつかなくなる」--。ソフトウェア開発の指針である「アジャイルマニフェスト」が生まれる23年前の記述である。
さらには「私はいわゆる計画の小変更についてもスムーズに対応できるような、いちいち脳まで行かずに反射中枢で折り返して、瞬時に対応する反射神経を企業が持っていなければならないと考えている」とも大野氏は記している。
アジャイルは、そのルーツを「ハーバード・ビジネス・レビュー誌」に掲載された竹内 弘高 氏・野中 郁次郎 氏の論文「The New New Product Development Game」(1986年)に拠る。同著は、富士ゼロックス、キヤノン、ホンダ、NECなど、日本の製造業の製品開発を研究対象とした。アジャイルは、今でこそソフトウェア開発の手法として広く知られるが「その根はハードウェア開発の現場で培われてきた。私たちは今、その原点に立ち返ろうとしている」と中谷氏は話す。


