- Column
- スマートホームで越境する空間ビジネスの好機
「便利な家電」というスマートホームの誤解【第1回】
Matterの本質はデータモデルの統一にある
Matterの本質は接続性以上に、デバイスが持つデータ構造を統一した点にあります。
例えば、温度、状態、エラー情報など各デバイスが持つ属性の定義や表現方法が標準化されています。これにより、メーカーが異なっていても、システムは同じ方法でデータを取得・解釈・活用することができます。空間に設置された無数のデバイスが、メーカーの壁を超えて「共通言語」でデータを送受信する世界、これこそがまさにMatterが描く世界です。
データモデルの統一は、AI(人工知能)技術の普及とともにその意義が大きくなるでしょう。張り巡らされたIoT(Internet of Things:モノのインターネット)デバイスで収集したフィジカル(物理)空間の状況を、前処理なく、正確に解析できることを意味するからです。
照明、空調、人感センサーなど、種類の異なるデバイス情報が統合できれば、空間の全体像をより高い精度で理解可能になります。さらに、それらデータをAI分析の判断に基づき実稼働機器などを制御することで、建物や空間はよりインテリジェントな存在へとアップデートできます。
カメラやスマートキーでも標準規格が作られている
Matterはリリース以来、約半年に1回のペースでバージョンアップを重ねています。直近、2025年にリリースされたMatter1.5では防犯カメラが標準化の対象に加わりました(図2)。
また、直近では2026年2月、Matterを推進するCSAが物理的なアクセス権限管理のための標準規格「Aliro(アリロ)」を仕様公開しました(図3)。Aliroは住宅向けのスマートロックに留まらず、オフィスビル、ホテル、大規模商業施設など、あらゆる「入口」のセキュリティに適用可能になります。
スマートロックや入退室管理の用途では、米Appleや米Google、韓国Samsungといった企業が規格化を牽引しています。Aliroでは、スマートフォンがあらゆる場所の鍵「スマートキー」となります。
日本国内においても、多くのオフィスや施設にカードリーダー式の入退室管理システムや、後付け可能なスマートロックの導入が着実に進んでいます。しかし現状、メーカーや規格が乱立しており、相互接続性の欠如が運用のボトルネックでした。
社員の入退社に伴う物理的なカードの再発行、ゲスト用アクセス権限の手動登録・削除など、こうした業務負荷はIT部門にとって小さくない負担です。Aliroが普及すれば、スマートフォンが共通の認証デバイスとなり、担当者の管理業務の負荷削減や、権限の消し忘れといったセキュリティリスクの低減につながるでしょう。
防犯カメラとスマートキーの標準化への対応が深化すれば、スマートホーム技術が「セキュリティ・監視・管理の業務インフラ」基盤となることを意味します。例えば、スマートキーによる解錠をトリガーに、防犯カメラが映像をAI解析し、解錠した人物と映像上の人物を照合して記録映像にインデックス(索引)を付与する仕組みなどが実現します。
標準化がもたらす衝撃は、実際にビジネスの現場で起き始めています。既に、先進的な企業は次なる勝負に目を向け始めています。つながることが当たり前になった世界では、接続性そのものは差別化にならないからです。いかに収集したデータを活用するか、いかに優れたサービスを提供するか、競争の軸は「どのように新しいビジネス価値を描くか」に移行しつつあります。
次回は、本稿で触れたMatterのようなスマートホーム技術が業務プロセスのDX(デジタルトランスフォーメーション)をもたらすのか、その核心について話します。
新貝 文将(しんがい・ふみまさ)
J:COM グループでさまざまなインターネット関連サービスの事業立ち上げを経て、2013 年から東急グループでスマートホームサービス「intelligent HOME」のサービス立ち上げを牽引し、Connected Design の CEO に就任。その後、スマートホームベンチャーのアクセルラボの COO/CPO としてスマートホームプラットフォーム SpaceCore の立ち上げを牽引したあと、株式会社 X-HEMISTRY を設立。豊富な事業立ち上げ経験を活かした伴走型ハンズオン支援や実行支援を展開。世界中の IoT 関連企業とのコネクションも幅広く持つ。2024 年 4 月に発足した Connectivity Standards Alliance 日本支部の代表に就任し、スマートホームのグローバル標準規格「Matter」やスマートロックの標準規格「Aliro」の普及推進を牽引。


