• Column
  • スマートホームで越境する空間ビジネスの好機

「便利な家電」というスマートホームの誤解【第1回】

新貝 文将(X-HEMISTRY 代表取締役/CSA日本支部 代表)
2026年6月18日

「スマートホーム」技術は今、個人の利便性を高める道具から、ビジネスや産業を支える「空間のインフラ」へと進化しています。本連載ではスマートホーム技術をB2B(企業対企業)やB2G(企業対政府)領域における産業基盤へと進化させていくに当たり、具体的な企業事例や規格動向を交えながら読み解いていきます。第1回となる本稿では、世界的な標準規格の普及によるメーカーの壁を越えたデータの共通化が、AI(人工知能)活用や管理業務の自動化をどう加速させるのか、ビジネスの基盤へと変貌するスマートホーム技術の最新動向を解説します。

 「スマートホーム」という言葉を聞いたとき、多くの人が思い浮かべるイメージは、スマートスピーカーで照明を操作したり、外出先からエアコンの電源を付けたりするといった使い方ではないでしょうか。こうした個人の生活の利便性向上というニーズに応えていることは、決して間違いではありません。

 実際、スマートホームのグローバル市場規模は、2024年時点で1000億〜1300億ドル規模(複数の調査会社による統計)に達しており、今後も拡大が続くと予測されています。特に海外では、スマートホームを標準装備した住宅建設が進んでいることからも、消費者向けデバイスの需要は世界的にも旺盛で、市場を先導しているのは事実です。

 しかし、スマートホームを“便利なデバイス操作の手段”とだけ捉えてしまうと、その本質的な価値を大きく見逃してしまいます。

 スマートホームという技術基盤は「住宅・建物・空間をデジタルでつなぎ、リアルタイムに制御・監視・自動化する技術」です。これは単に生活の快適さを高めるだけでなく、ビジネスの課題解決のためのツールとして機能することを指します。

 欧米を中心に、そうしたビジネスモデルが評価され始めています。例えば、ホテルや集合住宅における管理の効率化、他拠点店舗にまたがる設備の一括制御など、業務インフラとしてのスマートホーム技術の活用です。日本でも、ミーティングスペースなどでの入退室管理に採用例があります。

グローバル標準規格がデバイスを共通化する

 スマートホームが生活・業務基盤へと進化する上で、欠かせない技術革新が存在します。それが、2022年末に正式リリースされたスマートホームのグローバル標準規格「Matter(マター)」です。

 Matterとは、スマートホームの国際標準を策定・管理しているアライアンス「Connectivity Standards Alliance(CSA)」が主導して策定した、メーカーや通信方式を問わずデバイスを相互接続できる共通規格のことです(図1)。CSAには2025年5月時点で、プラットフォーマーの米Apple、米Google、米Amazon、韓国Samsungをはじめ900社近い企業が参加しており、Mattarへの対応デバイス数は急速に増加しています。

図1:Matterは対応デバイスを増やしている

 Matter以前、スマートホーム市場が抱えていた最大の課題は「相互接続性」でした。メーカーは製品ごとに各社の認証を通し、異なるプロトコルに対応させる必要があったのです。

 ある意味“つながりにくさ”は各社の差別化要因でもあり、囲い込み戦略の武器でもありました。一方で、各プラットフォーマーやメーカーが独自のエコシステムを構築することで異なる開発時間とコストを強いられ、異なるメーカー間のデバイス連携は困難を要してきました。

 Matterの登場当初、日本国内ではその実効性に懐疑的な声も少なくありませんでした。しかし、仕様公開から3年半が経過した現在、規格の成熟に伴いその評価も高まっています。今や多くの日本企業がMatterへの参画を加速しており、標準化の波は無視できない潮流です。