• Column
  • 官公庁DXに不可欠な“大手 × スタートアップ”の勧め

大手ITベンダーとスタートアップがうまく協業するには【第5回】

𡌶 俊介(ジーグラビティ 取締役COO)
2026年10月26日

アプローチ3:アプリケーションの調達にインフラ要素を含めない

 システム基盤が定義できれば、アプリケーション開発は確実にスピードが上がります。業務要件に基づいたUI(User Interface)/UX(User Experience:顧客体験)およびビジネスロジックに専念できるからです。とはいえ開発者は何でも自由に製作してよいわけではありません。アプリケーションの中でも次の要素はシステム基盤の定義の中で提供される条件に従うべきです。

(1)認証・認可 :ほぼ全てのアプリケーションがユーザー認証を必要とします。認証によりアプリケーション内の権限のコントロールや操作ログの正当性が担保されます。これをアプリケーション内でアカウントとパスワードを管理するような設計にすると、ユーザー管理の効率やユーザーの利便性が大幅に低下します。システム基盤が提供する認証環境に準拠しましょう。

(2)マスターデータ :アプリケーションが使用する固有のデータはアプリケーション内で定義する必要がありますが、共通で使用するマスターデータはシステム基盤が提供するものを参照するべきでしょう(図2)。ユーザーや組織、取り扱う物品などをアプリケーション単位で管理すると、データ連携ができなくなり、DXを阻害する要因になります。

図2:マスターデータや認証はシステム基盤が担うべき

 また、アプリケーションで使用するデータも標準化しておかないと、アプリケーション連携や分析の際に大きな足かせになってしまいます。

(3)アプリケーションの開発・実行環境 :開発から保守までのプロセスを実行する環境もシステム基盤としてとらえたほうがよいでしょう。CI/CDの観点から、ソース管理からテスト、デプロイなどの一連のプロセスは標準化し、開発者はそれに準拠して開発や保守を行います。テスト、ステージング、本番環境も開発側ではなく、システム基盤として提供するべきでしょう。

アプローチ4:アプリケーション間連携のためにAPIの思想を入れる

 DXを進めてゆくと、データを標準化するだけでなく、アプリケーション間の連携によるプロセスの自動化などが視野に入ってきます。その際に必要になるのがAPI(Application Programming Interface)です。大手ITベンダーとスタートアップの観点で違いがあるわけではありませんが、全体のアプリケーション間連携をどのように定義するかという点においては、アプリケーション間の個別調整を都度行うのではなく、APIの標準をシステム基盤として用意しておけば、アプリケーション側での調整範囲が狭まりスピード感の維持に寄与します。

システム基盤側にもスピード感が求められる

 以上のように、システム全体のアーキテクチャーを定義し、システム基盤として提供する範囲を増やすことで、スタートアップはスピードを維持したままアプリケーション開発に専念するとともに、品質の維持も可能になると考えられます。

 同時に、大手ITベンダーが得意とするシステム基盤も、安全性や安定性だけでなく、要求や環境に合わせたスピード感をもった対応が期待されます。大手ITベンダーはスタートアップのスピード感を取り込み、スタートアップは大手ITベンダーの安定性を取り込んでいくことが官公庁DXの推進につながるでしょう。

 次回は、大手ITベンダーとスタートアップの協業について、もう1つの観点である両者の関わり方について考えます。

𡌶 俊介(はが・しゅんすけ)

ジーグラビティ 取締役COO。SEとしてネットワーク設計やアプリケーション開発に従事した後、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)にてプリセールスとプロダクトマネージャーを経験。その後シトリックス・システムズ・ジャパンにてマーケティングに従事。NTTデータの関連会社ではマーケティング責任者に加え、事業推進と採用を担当。その後大手食品商社にて新規事業の立ち上げと運営をリード。外資系と国内企業、事業会社とベンダー双方の経験と視点を持ち、実効性と継続性のある仕組みづくりを重視した支援に取り組んでいる。中小企業診断士。