- Column
- 日系SDVが世界で勝つための協調と独自性
無人自動運転サービスを実証から事業へと転換し、日系SDVの巻き返しを図る
「SDVサミット2026」より、経済産業省 製造産業局自動車課 モビリティDX室長の黒籔 誠 氏
共通基盤構築で、限られた投資を実装につなげる
日本の巻き返しに向けたもう1つのポイントは共通基盤の構築だ。自動運転AIの進化には大量の走行データが必要になる。黒籔氏は、国内各社がバラバラにデータを集めて開発する現状について、「米中を追い掛ける立場としては非常にまずい」と危機感をあらわにする。米中と投資規模で競うことが難しいからこそ「開発や評価の基盤を共通化し、限られた投資の効果を実装に結び付けやすくする必要がある」(黒籔氏)
具体的な施策の1つが、自動運転向けのオープンデータセットだ。経産省は2024年度補正予算を活用し、国内の実走行データを基に、AI技術の初期開発に活用できる共通のデータセットを構築した。
走行映像やセンサー情報に加え、AIが経路を判断する際に必要な言語情報などのアノテーション(意味付け)を付与し、周囲の状況理解や運転行動の学習・評価に活用できる仕様になっている。「日本の走行環境をグローバルな自動運転AI研究の対象に組み込むことで、開発のエコシステムを広げる狙いもある」(黒籔氏)という。
E2E型AIについては、安全性評価手法の確立を進めている。具体的には「シミュレーションなどを活用した統計的な評価手法を構築し、国際基準や国際標準への反映を目指す」(黒籔氏)考えだ。評価の考え方を共有することは、無人自動運転サービスを社会実装するための条件整備にもなる。
SDVの技術開発から社会実装の制度設計へ
無人自動運転サービスの確立に向けた2026年度の取り組みとして、黒籔氏は「遠隔監視とサービス提供を整合させた無人化の事業モデルを、実証を通じて確立することを目指す」と意気込む。
まず、路線バスなど旅客輸送の無人化では、遠隔監視や車内サービスの提供方法をいかに効率化するかが課題になる。1人1台の監視体制では採算が合わないため1人で複数台をカバーする『1対N』モデルへの移行が鍵となる。黒籔氏は、その際に「遠隔監視システムなどが特定のベンダーに依存して互換性が失われるリスクを避けるべきだ」と強調する。
物流領域では、2021年度から5年間にわたり、自動運転サービス支援道を含む新東名高速道路でトラックの自動運転実証を重ね、先読み情報の活用や合流支援技術で成果を得た。しかし「事業として成り立たせるには課題が残る」(黒籔氏)のが現状だ。物流拠点の多くはインターチェンジを降りた一般道の先にあり、高速道路上だけを無人で走れても効果が薄い。今後は「一般道も含めた拠点間の完全無人化に重点を置く」(同)という(図3)。
自動運転のアプリケーションが真に価値を生むには、車両がインフラや社会サービスとつながる構造が不可欠になる。そこでは「SDVを車両単体の技術として捉えるのではなく、顧客から見たクルマのかたち、社会のあり方、移動のあり方を一気通貫で設計するモビリティDXに転換するのが本義だ」と黒籔氏は訴える。
その実現に向けては、車両やAI技術の開発に留まらず、社会実装を支える制度や事業環境の整備も欠かせない。データ基盤やサイバーセキュリティ、安全性評価といった土台に加え「遠隔監視の事業モデルの確立、規制緩和、事故時の責任分担の明確化までが論点に挙げられている」(黒籔氏)という。
講演の最後に黒籔氏は「SDVとは、社会的な目的を実現するための基盤技術だ。車両、インフラ、社会サービスを一気通貫で設計する発想が重要で、その立場からは、SDVと自動運転と遠隔監視などが分けがたい1つの政策課題であり、公共サービスなどさまざまなサービスともつながっていかなければならない」と締めくくった。
