- Column
- 日系SDVが世界で勝つための協調と独自性
日産自動車、協業型とプラットフォーム先行開発への転換でAIディファインドビークルを加速する
「SDVサミット2026」より、ソフトウェアデファインドビークル開発本部の杉本 一馬 氏
量産開始後もソフトウェアを更新し続ける時代に、Tier1サプライヤーへの委託を中心とした従来の開発体制が限界を迎えている。日産自動車 ソフトウェアデファインドビークル開発本部 ソフトウェアプラットフォーム&アーキテクチャ開発部 部長の杉本 一馬 氏が「ソフトウェア・ディファインド・ビークル・サミット2026」(主催:インプレス、共催:Open SDV Initiative、2026年6月11日)に登壇し「AIディファインドビークル(AIDV:AI Defined Vehicle)」の実現に向けて取り組む協業型への開発モデルの転換と、ソフトウェアプラットフォーム構築を先行する開発プロセスの見直しの現在地を語った。
「OEM(完成車メーカー)からTier1へ、Tier1からサブサプライヤーへと、再委託、再々委託が連なるピラミッド構造をなす『委託型』ではSDV(Software Defined Vehicle)が求める開発スピードに追いつかない。この慣習から1つブレイクアウトしたい」--。日産自動車 ソフトウェアデファインドビークル開発本部 ソフトウェアプラットフォーム&アーキテクチャ開発部 部長の杉本 一馬 氏はこう強調する。
杉本氏は“ガラケー“時代の組込みソフトウェアエンジニアとして出発し、サプライヤーからOEMである日産へと転じた。現在は、自動車業界のソフトウェア開発の仕組みそのものを変えようと取り組んでいる。
長期ビジョンの中核は「AIディファインドビークル」が担う
2026年4月、日産自動車はイヴァン・エスピノーサ(Ivan Espinosa)取締役兼代表執行役社長兼CEO(最高経営責任者)の下で、長期ビジョン「Mobility Intelligence for Everyday Life」を発表した。このビジョンの核に据えるのが「AIデファインドビークル(AIDV:AI Defined Vehicle)」だ。
AIDVとは「AI技術が車の価値を定義し、進化させ続けるという考え方」である。日産は「SDVプラットフォームの上にAI技術を乗せ、自動運転と車内体験の両面で価値を高めていく」(杉本氏)構想を掲げる。
具体的な柱は (1) 「AIドライブ技術」、(2) 「AIパートナー技術」の2つだ。
AIドライブ技術は、AI技術を活用した自動運転・運転支援の領域だ。E2E (End-to-End) を用いることで高速道路だけでなく、複雑な市街地を含む”ドアツードア”の運転支援を実現する。日産はこの技術を活用した次世代「ProPILOT」を、2027年度に市販車へ搭載する計画を公表している。一方のAIパートナー技術は、移動空間をより快適にするための車内AIアシスタントである。
この2つのAI技術を正しく機能させるために不可欠なのが「堅牢かつ安定したプラットフォームだ」と杉本氏は強調する。日産はそのSDVプラットフォームに「Nissan Scalable Open Software Platform」 という名称を与えた(図1)。本プラットフォームは、SDK (Software Development Kit: ソフトウェア開発キット)、Data、OSの3層から構成され、AIドライブ技術とAIパートナー技術はその上で動く。
Nissan Scalable Open Software Platformについて杉本氏は「社内でも、長くて覚えられないという声がある」と明かす。それでもあえて長い名称にした理由もある。堅牢にこだわり過ぎて「拡張可能かつオープンでない基盤になってしまっては仕方がない。この認識を、プラットフォームの名称そのものに込めた」(同)という。
プラットフォーム先行型でシフトレフトを実現する
日産が変革を目指すうえで最初に直面する壁は、開発モデルだ。これまでの自動車業界では「Tier1のサプライヤーが主導する委託型の開発が主流」(杉本氏)だった。SOP(Start of Production:量産開始)後もソフトウェアを継続的に更新し続ける時代に、契約ベースで都度調整が必要な委託型では対応が追いつかない。
では、すべてを内製化するのかというと、そうではない。日産が目指すのは「『協業型』への転換」(杉本氏)だ(図2)。SoC(System on Chip)ベンダー、OSベンダー、ミドルウェアベンダー、Tier1、そして必要に応じてサードパーティー開発者まで、OEMが中心となって直接調整するモデルである。
杉本氏は「我々がやりたいことを、技術を持ってサポートしてくれる企業と直接契約をして、開発をリードしていく」との考えを示す。その一方で「本当にこれで開発が回るのか、スピードが上がるのかは、しっかり一巡開発を回してみないと正直分からない」とも述べた。協業型での開発はまだ実績がないが「委託型では限界があるという確信が、変革を後押ししている」(同)という。


