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- 今考えたいエマージングテックの価値と企業の成長戦略
AI時代の競争優位は“エマージングテックの融合”が決める【第1回】
AI技術をハブにエマージングテックを組み合わせる
例えば、AI技術は単体でも大きな価値を生むが、ロボティクスと結び付ければ現場の自動化へ、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)と結び付ければリアルタイム制御へ、XR(X Reality:仮想・拡張・複合現実)と結び付ければ設計・教育・保守の高度化へと、その応用範囲が広がる。
量子コンピューティングは最適化や創薬などの領域で将来のゲームチェンジを起こし得る。ブレインテックは人間理解やインターフェース設計の再定義につながる可能性がある。重要なのは、単独技術の成熟度だけでなく、組み合わせた時に、どの業務や産業で非連続な価値が立ち上がるのかを見極めることだ。
こうしたエマージングテクノロジー(新興技術)は遠い将来の研究テーマではない。中長期的ではあるものの、経営として今から選択肢を持っておくべき“次の実装候補群”である。AI技術をサイバー空間側のハブ技術と捉え、その周囲にロボティクスや、IoT、XR、量子コンピューティング、ブレインテック、デジタルファブリケーションといった領域を位置付けることで新しい価値を創出し、社会変革のドライバーにする(図2)。
繰り返しになるが、重要なのは、1つひとつの技術を個別テーマとして管理することではない。現実世界の人・機械・産業活動からデータを取得し、サイバー空間で解析・予測し、その結果を現場や製品、業務へ戻す。この循環の中で各技術の役割を設計することに意味がある。
加えて、この枠組みは単なる技術カタログではない。人手不足、技能継承、脱炭素、サプライチェーンの不確実性といった経営課題に対し、どの技術を単独で使うかではなく、どの組み合わせで解くかを考えるための地図でもある。製造業を例にとれば、IoTの仕組みで現場データを取得し、AI技術で異常予兆を捉え、XRで熟練知を伝承し、ロボティクスで実行につなげるといった連携を描き出す。
この観点に立てば、経営が見るべきポイントは次の3つである。
観点1 :どの技術が自社事業の意思決定の質や現場生産性を高めるのか
観点2 :その実装に必要なデータ基盤、セキュリティ、責任分界、説明可能性をどう整えるのか
観点3 :3〜5年後の事業オプションとして、今は収益化が遠く見える技術でも、どの市場変化が起きた時に一気に立ち上がる可能性があるのか
エマージングテクノロジーへの投資は、単なる研究開発費ではなく、不確実性に対する戦略オプション取得の側面がある。だからこそ、技術成熟度だけでなく、自社の実装準備度やパートナー戦略までを俯瞰(ふかん)して見極める視点が欠かせない。
問われるのは専門知見と変革を遂行する力
生成AI技術により、知識へのアクセスコストは大きく下がった。専門知見を広く浅く把握する上で有用であることは言うまでもない。知見の薄い専門分野や技術領域であっても、生成AI技術を利用することで一定の理解水準に到達しやすい時代になった。
一方で経営が必要とするのは、AI技術が生成した要約そのものではない。どの技術を自社の競争優位に結び付けるのか、どのリスクを許容し、どこに統制をかけ、誰が変革のオーナーシップを持つのかを決めることであり、それを実行する力である(図3)。
この文脈で企業変革の推進に求められるのは、変化が激しく不透明さが増す世界において、信頼に足る情報や専門知見を基に、何がビジネス上の論点なのかを見極め、それを踏まえてどう行動すべきかを示し、責任を持って変革を遂行する力である。
言い換えると、特定のテーマや分野において、既に有する専門知見を示すだけでは十分ではない。特定の業界課題や技術について、何がビジネス上の意味を持つのか、どのような変革が望ましいのかを意思決定に資する形で提示し、論点設定、投資優先順位付け、ガバナンス設計、実装ロードマップ策定に繋げた上で、実行のベースにする。
こうした力は、AI時代に企業変革を進める上で不可欠だ。未整理の課題を言語化し、経営が意思決定できる論点へ落とし込むことが、これからの変革推進に求められる。
次回は、AI技術を“導入する”議論ではなく“協業する”ために企業が備えるべき組織能力と人材要件について解説する。
小林 峰司(こばやし・たかし)
KPMGコンサルティング プリンシパル。日本および米国大手通信事業者にてグローバル事業、米国本社組織でのプロダクト開発を経て、外資系コンサルティングファームに移籍。情報通信業界向けアドバイザリー業務に加えて、同社シンクタンク組織の創設メンバーとしてテクノロジー分野をリード。2025年より現職。テクノロジー起点での調査研究と網羅的な動向分析により、中長期かつ業界横断でのインサイト発信とアジェンダ導出によるインパクト創出を手掛ける。講演・寄稿実績多数。


