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  • 今考えたいエマージングテックの価値と企業の成長戦略

AI時代の競争優位は“エマージングテックの融合”が決める【第1回】

小林 峰司(KPMGコンサルティング プリンシパル)
2026年6月3日

生成AI(人工知能)技術の普及により、もはや「AIを導入しているかどうか」だけでは企業の競争優位性は高められない。これからの時代、企業の競争優位性を左右するのは、AI技術をハブにエマージングテクノロジー(新興技術)を含めた複数の先端技術を組み合わせ、安全に実装し、どのように事業へスケールさせるかだ。今回は、そうした外部環境の変化を踏まえ、エマージングテックの全体像と、成長戦略を描くために経営層を含めた意思決定層が備えるべき論点を整理する。

 スイスのダボスで2026年1月に開催された世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)の年次総会(通称「ダボス会議」)は、全体テーマを「対話の力(A Spirit of Dialogue)」に130カ国以上から約3000人が参加した。そこでの議論の焦点は、個別技術の“新奇性”よりも、技術を社会や企業に責任ある形で広げるための制度やインフラ、人材、信頼に置かれていた。

競争の軸は「発明競争」から「実装競争」へ

 とりわけ技術戦略と実装に関わる経営判断を求められるトップエグゼクティブ層にとって重要なのはバズワードの多寡ではない。自社の成長戦略や現場オペレーション、リスク管理、そして人材ポートフォリオの中に、種々の先端技術をどう位置付け直すかである。先端技術はもはや、IT/DX(デジタルトランスフォーメーション)部門だけのテーマではなく、経営アジェンダそのものと言える。

 2026年のダボス会議を通じて浮かび上がったのは、1つひとつの技術が単独の話題として語られるのではなく、「成長」や「人への投資」「地政学」「サステナビリティ(持続可能性)」といった経営アジェンダを横断する前提条件として扱われている点だ。

 経営層にすれば「どの技術がすごいのか」を眺めることではなく「どの技術を、どの順番で、どんなガバナンスの下で事業に組み込むのか」という問いに答えることが重要になる。先端技術への投資は、もはや単発のPoC(Proof of Concept:概念実証)を増やす競争ではなく、事業へ埋め込み、継続的に価値を創出する“実装能力”の競争に移りつつある。

 この変化は、投資判断の基準も変える。PoCの成功率や短期的なROI(Return on Investment:費用対効果)だけでなく、データの可搬性や、既存業務への接続可能性、規制対応、セキュリティ、説明責任、パートナーエコシステムといった条件が、技術導入の価値を左右するからだ。一見すると技術選定の問題であっても、実際には組織設計とガバナンス設計の問題である。

競争優位の源泉は複数技術の“融合”にある

 ダボス会議が示したもう1つの重要な示唆は、競争優位の源泉が個別技術の保有ではなく、技術同士の組み合わせへと移っていることだ。世界経済フォーラムが掲げたテーマや総括、技術関連ストーリーなどを読み解くと、先端技術は、もはや経済成長と戦略資産としてだけではなく、信頼や、サイバー耐性、ガバナンスを前提としたAI実装などに加え、技術の“融合”をどう捉えるかが重要視されている。

 世界経済フォーラムは技術融合の一例として、量子コンピューティングやエンジニアリングバイオロジーなどの新興技術群の組み合わせが、新たな価値創造や市場機会を生むという見方を示している。

 これは、同フォーラムが2025年に発行した技術レポート『テクノロジーコンバージェンス・レポート』で提唱した「3C(Combination:組み合わせ、Convergence:融合、Compounding:複合化)フレームワーク」から進んだ議論である。2026年1月に公開された同フォーラムの記事でも「創造的破壊は、孤立したブレークスルーよりも、複数技術の 3Cによって動く」と整理している。

 実際、ダボス会議中に開催された公開イベント「オープンフォーラム」では、未来の社会像を問う公開セッションとして「量子」「2050年の医療像」「食の未来」「今後25年のガバナンスのあり方」などのテーマが取り上げられた。そこで注目すべきは、1つひとつの技術を縦割りで扱うのではなく、社会実装や制度設計まで含めた横断テーマとして論じられた点だ。

 こうした潮流を踏まえれば、企業もまた、先端技術を個別テーマとして管理するという発想から、複数技術の接点に対し、どうポジションを取るかという発想へと、戦略の組み方そのものを変える必要があるのではないだろうか(図1)。

図1:先端技術の競争軸は技術の“単独導入”から複数技術の“融合実装”へ

 そこでは「どの技術の組み合わせから新しい価値連鎖や事業機会が生まれるのか」への見立てを持ち、投資配分や事業開発の優先順位に反映していくことが、これからの経営層に求められる重要な論点になる。